『将来を担っていく今の薬学生へ』


京都薬科大学 名誉教授 乾賢一先生に尋ねる「これからの薬剤師」

乾賢一先生のご略歴

乾賢一先生インタビューーー今後、薬剤師が社会で認められ、地位を確立していくために必要なことは何だと思いますか。

薬剤師にしかできないこと
様々な業務のオートメーション化やテクニシャンの導入などは確かに流れとしてはありますが、薬剤師としてそれに取って変われない部分は大切にしていくべきだと思います。例えば患者のメンタルケアやコミュニケーションなどはその一つの例でしょう。まずは自分の家族に薬剤師の必要性、重要性を説明して納得してもらうことが大事ではないでしょうか。もしそれをすべての薬学生ができれば、社会からの理解は変わってくるのではないかと思います。

薬剤師法第25条の2はなぜ改正されたか
「薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」
薬剤師に最も必要なことの一つとして薬に関しての情報提供があります。これは薬剤師法第25条の2に明記されています。薬剤師法第25条の2は平成9年に施行されました。平成5年に起こったソリブジン事件ではソリブジンがフルオロウラシル(5-FU)の代謝酵素を阻害し、5-FUの血中濃度が高くなったために、重篤な血液障害を引き起こしました。このようなことを防ぐために、薬剤師に薬剤情報提供が義務化されたのです。
また、平成26年に薬剤師法第25条の2は、従来の「情報提供義務」から「情報提供及び指導義務」と改正されました。指導という文言は医師法第23条にも通じるところがあります。情報提供だけでなく薬の適正使用のために患者への指導を行わなくてはなりません。この改正は薬剤師として非常に大事なことであると思います。

ジェネラリスト且つスペシャリスト
専門薬剤師など高度な専門的能力が薬剤師に求められていることは確かです。しかし、薬剤師はスペシャリストでありながらも、オールラウンダー(ジェネラリスト)でなくてはなりません。
基本的に医師には専門科があります。しかし薬剤師は薬のプロとしてすべての薬に精通してなくてはならないと思います。例えば心臓が悪くて循環器内科にきた患者は糖尿病も併発してるかもしれない。リウマチかもしれない。このように様々な疾患を併発して、複数の薬を服用している患者も決して少なくないと思います。そういった場合に薬剤師は薬の相互作用などにも気をつけながら、すべての薬物療法に対して責任を持つということが大切になってきます。その上で専門分野を持つ薬剤師がいてもいいとは思います。

 

inuisanファーマシスト・サイエンティスト
今日の医学が発展した根本にあるのは「サイエンス」です。薬学もこれからの発展を考えると科学的な研究は欠かせません。臨床、研究、どちらか一つというわけではなく、研究に基づく臨床、臨床に基づく研究というのが大切になってきます。医学部に比べ、薬学部で大学院に進む学生は少ないのが現状です。薬剤師が臨床家であると同時にサイエンティストであるべきであるということを意識していくためにも、薬剤師免許取得だけでなく、博士号をとる学生が増えていくことが必要だと思います。学位は日本だけでなくグローバルに通用するものです。「ファーマシスト・サイエンティスト(研究能力を持つ薬剤師)」はこれからの薬剤師を考える上で、欠かせないキーワードです。

薬剤師はひとつ
私は以前京都府薬剤師会と京都府病院薬剤師会の会長を兼任した時に、見えてきたことが多くありました。当時様々な団体が集い、医療行政、医薬分業などについて話し合う席(医療提供側、医療を受ける側、行政の3者からなる医療審議会)には病院薬剤師会の席はありませんでした。そこに私は薬剤師会の会長として出席したことで、病院薬剤師からの視点を踏まえた議論をすることができました。私が両団体の会長を務めた8年間で薬剤師に対する周囲からの理解も深まりました。最終的に京都府における薬剤師会と病院薬剤師会の統合に至ったのは、私が無理矢理に行ったものではありません。両薬剤師会における数年間の議論の中で自然な流れとして起こったものでした。
薬局薬剤師と病院薬剤師が連携することの利点としては、なによりも情報共有でしょう。医薬分業が進んで入院中病棟で薬の管理をされていた患者が、退院すると地域の薬局で薬をもらうことになります。薬に関しては医者ではなく薬剤師が、その患者に対して責任を持つためにも、情報の共有は必須となってきます。また病院薬剤師にしか見えないこと、薬局薬剤師にしか見えないことを擦り合せることによってより高度な議論ができることになり、研修会も増え、医療人として見える幅も広がってきます。
さらにもう一つは、MRにも影響があります。というのもMRはしばしば病院を訪問しますが、処方箋のそれぞれの薬局に出向くのは数が多いため困難です。病院薬剤師と薬局薬剤師で情報が十分に共有できる体制が整っていればMRがそれぞれの薬局に出向かなくても、情報収集・提供の効率は非常にあがります。

ーー今の薬学生に必要なことはどのようなことですか。
将来を背負って立つ自覚
受け身な姿勢から脱する必要があると思います。高校まで授業を受けてそれを覚えてきた習慣が抜けていないのではないでしょうか。大学では自分で勉強するということが大事になってきます。教えてもらったからできるというわけではありません。私たちは、今日の薬剤師業務が当たり前ではなかった時代にゼロからエビデンスを積み重ね、新しい薬剤師の業務を確立してきました。今の薬学生にも「自分がつくりあげるんだ」「将来を背負って立つんだ」という気持ちを持つことが必要であると思います。

6年制に対するプライド
自分が6年制の薬学生であることにプライドを持っていますか。医学部の学生たちと比べ、薬学生はそこが弱いように感じます。社会から求められ、薬の専門家を養成する薬学部だからこそ6年制になったということを意識すべきではないでしょうか。なぜ6年制になったのか薬学生がその経緯を理解することは、薬剤師になってからの責任感につながってくると思います。先輩薬剤師の様々な苦労やたくさんの方の尽力があって、薬学教育6年制が始まりました。それに対して今6年制の教育を受けている薬学生自身が責任を感じることができなければ、社会からも薬剤師の職能や責任の重さを理解されないでしょう。

薬剤師法、医師法の第一条に立ち返る
50年以上も前に施行された薬剤師法と医師法の第一条を比較したことがあるでしょうか。
薬剤師法第一条「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」
医師法第一条「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」
ここから分かるように、異なるのは業務の内容だけであって、「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」という任務は同じであります。医師は診断、治療、薬剤師は薬の適正使用、安全管理、副作用の管理というようにそれぞれの責務を遂行し、共通の任務に立ち向かっていく必要があります。
これをベースに薬学教育改革や医薬分業も進んできました。医療の高度化や医薬分業の進展に対応出来る質の高い薬剤師を養成するために、様々な議論を積み重ねた結果、6年間が必要であるという結論になりました。この意識は薬学生として持つべきであると思っています。

自分が切り拓いていくという精神
最後に私が京都大学附属病院に務めていた時、薬剤部の目標として掲げていたキャッチフレーズをご紹介します。
当初は「PassiveからActiveへ」「NegativeからPositiveへ」「21世紀の医療に対するロマン」の3つを掲げていましたが、その後「創意と挑戦」「経験と感性」を追加しました。
これらを掲げ、薬剤師の新しい業務確立や人材育成に尽力してきました。
将来が不安である、薬剤師の将来が見えないという学生もいるかもしれませんが、そうであるならば、「自分が切り拓いていくんだ」という気持ちで立ち向かっていってほしいと思います。
インタビュアー:
2016年度広報統括理事 小池雄悟(立命館大学4年)
広報部 矢野光海(神戸学院大学3年