「あなたが私の薬剤師でよかった」と言ってもらえるように

 

1915531_1071156722947170_4381623393670372752_n医療法人つくし会 南国病院
薬剤部長
川添哲嗣先生インタビュー

川添哲嗣先生流
〜マイ患者のために〜

                            ご経歴>>>

MR、病院、薬局と経て、なぜ病院に戻ってこられたのですか。
結論から言うと、「経営者ではなくマイ患者を持つひとりの薬剤師」に戻りたくなったからです。

そう思うまでの過程を卒業後から語っていくとわかってもらえるかもしれません。
1990年に神戸学院大学を卒業後、ニチバン株式会社大阪支店に4年間勤め、MRというよりは絆創膏やテーピングテープの営業を中心に兵庫や大阪の薬局を毎日回っていました。当時の薬局の業務は保険調剤ではなく、一般用医薬品販売が中心でした。景気もそこそこ良かったので小さな薬局でもドラッグストアでもいろいろな薬品や商品がどんどん売れていました。
営業に行った軒先で、薬局薬剤師の「客商売トーク」を聞くといろんな意味でとても勉強になりました。
「なるほど、あの風邪薬はそういうトークをするのか」
「商品は類似品3つくらいから選んでもらうと消費者は納得するのか」
「近所のおっちゃん、おばちゃんと世間話しながら薬を売るのは楽しそうだな」
「このポップは秀逸!確かにこう書かれると買いたくなる」
と門前の小僧のごとく薬局薬剤師の面白さを覚えていき、ついには自分で店を持ちたいという思いに至りました。

1994年、26歳で転職を決意し、薬局か病院かで迷ったのですが、医療用医薬品のことを先に覚えた方がいいようになんとなく思い病院を選びました。兵庫県三木市の服部病院に1年いましたが、阪神大震災を経てその年の4月にふるさとの高知へ戻り農協総合病院に3年勤めました。合計4年の病院薬剤師時代に、医師、看護師らとの連携や病棟での服薬指導の重要性を体感しつつ、この時に受け持った患者さんに対して「自分の患者(マイ患者)」という思いを持ったわけです。

1998年、30歳、ついに薬局薬剤師になります。院外処方が一気に広がった年でもあり、一般用医薬品を売りながらも保険調剤メインの薬局を開設したわけですが、「どこの病院に行っても自分の薬局に来てもらえるマイ患者をたくさん持てたらいいなあ」とワクワクしながら店頭に立った初日の事は忘れられません。この思いはまさに現在の「かかりつけ薬剤師」と同じだと思います。10660125_1067149553347887_8870194727935160421_n
薬局では調剤、OTC薬や健康食品、化粧品、介護用品の販売といったこともやり接客の楽しさやマイ患者との語らいが本当に楽しく充実していました。そして小学校でのタバコや薬物乱用防止授業、地域イベントなどにも関わり地域全体が仕事場でした。また、当時まだまだ珍しかった在宅訪問もすぐに始めていましたから、そのノウハウをまとめて地域で在宅講習会を開きました。実はこの講習会の資料が、現在の日本薬剤師会編集の「在宅服薬支援マニュアル」の基礎データになっていることは密かな自慢です。笑

こんな感じで2014年3月までの16年間薬局にいたわけですが、現場中心だったのは最初の3年だけ。あとは院外処方率の上昇とともに開店ラッシュで、マネジメント業務の方がメインになってしまいました。16店舗で100人以上の職員に関わっているとマイ患者へ割く時間はどんどん減り、マイスタッフへの時間がメインになったわけですね。実は2010年ごろから悩み始めていました。これからの人生・・・このまま経営者としてやっていくのか、はたまた薬剤師としてマイ患者に関わることをメインとするのか・・・
そして2013年春先に経営者から降り、ひとりの薬剤師に戻ることを決断しました。かっこよく言うと経営マネジメントよりもマイ患者のために残りの薬剤師人生を使おうと思ったわけです。最初は自分で店を出すことを考えていましたが、南国病院の院長から「困った。薬剤師がゼロになる」という相談に乗っているうちに、「私にやらせてもらっても良いですか」と言ってしまったのです。2013年11月のことです。
患者さんから「川添さんが私の薬剤師でよかった!」と言ってもらえるように頑張ろうという決意を持ったことは言うまでもありませんが、160床規模の病院であっても、病院薬剤師から積極的に地域包括ケアに関わることができるのではないか、という漠然とした思いが浮かんだのでそれを実践して、ノウハウを情報発信していけば薬薬連携の促進にもなるだろうとも思ったわけです。

こうして2014年4月「薬剤師、川添」の再スタートが切られたわけですね。

「陽転思考」で今の薬業界をどう捉えていますか。
陽転思考とは、コップの中に半分入った水で例えると「水が半分しかない」という陰に注目するのではなく、「水が半分も入っている」という陽に注目した考え方。「〜〜しないとダメになる」と言わず「〜〜すれば良くなる」というものの言い方をする思考のことです。
薬業界も「このままじゃダメ」なんて言っていても暗くなるだけ。「これとこれをすればいいじゃん」と明るく行動していけば少しでも良くなるでしょうね。だから危機感や閉塞感を煽っても心がしんどくなるだけなので、問題点をどうすれば解決するのかを考えていけばいいと思います。

保険薬局業界はちょっと仕事を増やしすぎているかも。理想を追い求めた結果、いろんな算定要件や為すべきことに追いかけられています。全部まともに取り組んでいると、プライベートの時間がほとんどなくなるかも。大事な地域連携の時間はとりたくても取れないし、いやそれどころか薬歴を書く時間さえなくなって困っている・・・なんて薬局もあるほど。
この状況はあんまりよくない。だから「薬歴の算定要件」をぐっと減らすところから着手したほうがいいと思っています。そうすれば時間が生まれて、本当に大事な患者さんのために地域で多職種連携する時間と平日早く家に帰る時間が生まれますから。健全な明るい未来が待っています^^

病院薬剤師は50人以上の大所帯基幹病院薬剤部と、2名〜4名程度の中小病院薬剤部と、その中間くらいの病院があってそれぞれ業務レベルはバラバラです。でもそれぞれが理想を追求して平均的には全国でいい実績を上げているところが多いようですね。これはなぜかというと入院患者さんへの関わりで良いので目標を明確にしやすいからだと思います。業務はたくさんあるけれど、薬局よりは時間が作りやすいというメリットも手伝っていると思います。病棟業務とデータは直結しやすいですから、結果実績のある仕事に見えるわけですね。(だから薬局もデータを取るくらいの余裕が必要と思うわけです)
しかし!!共通しているのは退院後の地域連携にあまりにも目が向いていないということ。院内だけに着目しすぎています。ここはこれから改善していった方がいいと思います。私の最近の講演内容は具体的に何をどうすれば地域連携になるのかという話です。ぜひ、いつか聴いてもらいたいと思います。

薬学部の先生方は・・・千差万別、十人十色ですね。地域医療を語れる方もいれば、実験データにしか興味がない方もいる。大学は社会の縮図なので学生さんは上手く乗り切ってください。

患者さんに対してどのように接するようにしていますか。
正直に申し上げますと、広く浅く接しています。私の本を読んだ方は「広く深く」という印象を持ってしまいがちですが、そんなことをしていると自分の時間がなくなりますし、患者さんもそれは望んでいませんので。実はもっと正確に言うと「広く浅く、ここぞ!というときにはピンポイントで深く」です。
普段、外来や病棟で広く浅く関わっているときは、いわゆるルーチン作業です。効果、副作用の説明とチェック。そして体調(食事、排泄、睡眠、運動、認知機能)の聞き取りや五感で行うチェックですね。それを薬歴に残す。オッケーなら笑顔で承認!これで普段は十分です。
でも「あれ、おかしい。明らかに心身レベルが落ちている」あるいは「うわー!全然飲めていないことが判明」という瞬間に立ち会うことが時々あります。その時が「ピンポイントで深く」関わる時です。1週間に一人か二人、いや月に一人でもいい。ここできちんと関わることが必要だ、と感じた時にはほっとかない!で、めでたくマイ患者の誕生です。笑
この積み重ねで何年もやれば、本当の意味でのマイ患者だらけになります。私の場合は、そんな感じがちょうどいいと思っています。

薬薬連携、多職種連携についてあるべき姿はどのようなものですか。
すぐに「何をすれば連携できるようになるのか」という大局的To Do検討をする人がいますが、それは正しい思考過程とは言えません。大切なのは「この患者さんが、どうなりたいか、どうありたいか。そのために誰が何をすればいいのか、それはいつまでに?」という患者さん個々の達成目標をまず共有することです。達成目標の主語は薬剤師や医師ではありません。患者さんが主語です。
手順としては、現状把握(課題抽出)→達成目標の設定です。そして目標に到達するために必要な行動計画を立てていきます。その時にきっと連携してやることが効率的であり、患者さんのためにもなることはすぐに気づくと思います。

例)(課題)独居、認知レベル低下のため、退院しても薬が自己管理できない可能性が大きい
(目標)きちんと服薬ができて、体調が安定し、孫の運動会を見に行きたい
・・・ここはワクワクする目標にすることが大切(ケアマネが目標設定の中心人物)
(行動計画)では、服薬支援をどうするかを考える
声かけ:何曜日に誰がするか?などをコーディネートしていく
その時、薬剤師が用法をデイサービスの時間などにまとめるなどの提案を医師にする
入院中にこれを病院薬剤師がやっておけば、スムーズな退院支援となる
その情報は当然、保険薬局へと引き継がれる
こんな感じです。
検査値を処方箋に掲載することも連携の一つで重要ですが、患者さん個別の目標達成のための連携の積み重ねこそが真の「地域連携」と言えます。

在宅について、患者はどのようなことを望んでいて、どのようにアプローチすればいいですか。
在宅で患者さんが望まれることは病気によっても全く違います。残された時間があまり無い、がんターミナル。長期療養が必要となるALS、認知症、パーキンソン病、脳梗塞後遺症。これだけ比べても医療ニーズ、介護ニーズは大きく違っています。無理やりですが、共通している思いをあえてひとつだけ挙げるとすると、「必要最小限で最大効果を上げてもらいたい」ということかもしれません。つまりは医療介護職にべったり張り付いてもらい、何もかもしてもらいたいわけでも無いということです。負担金がかかる人は特に、過剰なサービスを好まないことは容易に想像できると思います。だけど、目標達成のための最良のサービスを求めています。人間の心理として、当たり前ですね。

薬剤師の訪問についてはどうでしょう?「週間カレンダーに薬を入れて、話を聞いて、体調チェックをして、血圧測る」これだけだとすると、果たしてそれは薬剤師の必要はあるのでしょうか?ましてや毎週行くのもナンセンスですね。時に押し付けの過剰サービス提供になっていることがあるかもしれません。
例えば薬が飲めさえすれば体調が安定する方であれば、1ヶ月から2ヶ月に1回の薬剤師訪問にしても良いと思います。途中の服薬支援は多職種連携でヘルパーさんや看護師さんや家族と協力して管理していけばいいわけです。
身体疼痛がひどく、オピオイドのタイトレーションが必要な方ならそうはいきません。痛みを取るタイトレーションのためなら週に2回行くことも必要だと思います。患者さんもそれを望むことでしょう。

このように、フレキシブルなものの考え方で患者さん中心に考えていけば、一番良いスタイルが見えてきます。

次世代を担っていく薬学生に求めることを踏まえてメッセージをお願いします。
「よく遊び、よく学び、将来よく働いてください」
まずはよく遊びましょう。人生は一度きり。親、友達を大切にしつつも人生を楽しんでください。趣味に没頭するのも良いでしょう。IMG_9219
よく学ぶことは言うまでもありません。学生の本分です。そもそも親にお金を出してもらっているのですから、全教科満点取るくらいの気持ちで授業に臨むのが当たり前です。と、偉そうなことを言っていますが、実は私はギリギリで進級、卒業、国試合格でした。ですから自己反省を込めて申しております。笑

趣味を持ち、仲間を持っている人は時間の使い方が上手くなりますし、人生が豊かになります。自分を大切にしているから結果的に患者さんにも優しく笑顔で接する余裕が出ます。患者さんの話す話題への相槌も上手くできるでしょうし、楽しいことには笑顔で悲しいことには悲しい顔で傾聴することもできることでしょう。大いに遊んだからこそ身につく感情の豊かさが多様な対応を可能にするわけですね。

知識レベルはコンピューター並なのに、笑顔がない、趣味がない、人生の喜びがない薬剤師に投薬してもらいたいと思いますか?

というわけで豊かな人生をまずご自分が歩んでください!そうすればきっと患者さんに優しい薬剤師になれますよ。

 

インタビュアー:
広報統括理事 小池雄悟(立命館大学4年)
関西支部長 西野萌子(武庫川女子大学2年)
島田麻里(大阪薬科大学4年)