患者の人生への関わり方

一般社団法人 水口病院
薬局長
大久保 雅則先生インタビュー

患者の人生への関わり方

〜精神科薬剤師からのアプローチ〜

後悔ではなく、これからどうするか

━━━━精神科の薬剤師になった理由を教えてください。

一番大きいのは一人の友人のことです。大学4年間一緒にやってきた仲間ってある意味’戦友’じゃないですか。濃密な時間を過ごしてきた仲間って人生においても、とても重要な存在だと思うんですが、そのうちの1人が国家試験に落ちてしまって、卒業式の翌日に自殺してしまったんですIMG_5859よ。僕はそれがとてもショックだったんですよね。ずっと仲良くやってきたのに、相談を受けたわけでもないし、何も気づけなかった。200人以上の同級生が医療人として巣立った日に、たった1人の友達すら救えなかったことに不甲斐なさを感じました。そこで思ったんです。精神というものは人間においてとてつもなく重要なもので、それによって、ある日突然死が訪れてしまうことがあると。「後悔ではなく、これからどうするか」を考えた結果。それが今この領域に関わっているもっとも大きな理由です。

患者に対する’動機付け’

━━━━精神科の薬剤師における医療への関わり方について教えて下さい。

基本的には他科と同じように薬剤管理指導業務がメインではありますが、患者さんの僅かな機微や目線の動き、空気の溜め、内容の具体性や訴えの頻度など、心の動きや真相について知ろうとする関わり方が特殊であり、精神科の醍醐味かもしれません。そして、精神疾患は圧倒的に罹患の期間が長いんですよね。心因反応のように一時的なものや、うつ病のように治る病気もありますが、統合失調症のように治らない、治りにくい病気が社会的にも注目されています。どうやって病気をうまくコーディネートし、付き合っていくのかが重要になってきます。そこで、これからは在宅医療分野での関わりが大切になってきます。急性期、入院、退院そして社会生活の回復へむけて患者さんの人生への関わりが必要です。

━━━━水口病院では薬物治療だけに限らず、それぞれの患者に合わせてさまざまなアプローチをしていますよね。

そうですね。例えば血液検査をしたとしてHbA1cが7や8という値が出て、「糖尿病です」と診断されたら、迷うことなく糖尿病の治療を始めるじゃないですか。
しかし、精神疾患においては「病識」がないことがとても多いです。自らが病気であるという自覚が欠如しているケースがほとんどで、ここが大きなポイントとなってきます。つまり我々は自分が病気ではないという人に対して薬を渡すことになります。そういった意味で医療が介入するのが難しい分野ではあります。そこで、僕らの方針としては「どうやって納得して薬を飲む、医療を受ける動機を得るか」ということになってきます。最近はインフォームドコンセントよりもSDM(Shared Decision Making)が注目されています。医学的情報を一方的に与えて患者の同意を得るというインフォームドコンセントに対して、SDMは患者さんの情報を踏まえた上で共に決めていくことですが、SDMが成立するためには当然私たち医療人のコミュニケーション能力が必要となってきます。相手側の意図を引き出しつつも、こちらからも情報を与える双方向的なコミュニケーションが求められます。SDMの基本はChoiceトーク、Optionトーク、Decisionトークの三段階で構成されますが、そもそも病識のない患者さんにとってはChoiceに至らないわけですよ。そこで私たちは病棟や訪問に行った時に患者さんにどうやって医療行為に対して納得してもらうのか、Choice以前の段階で治療を受けてもらうことに対する個別のアプローチが大切となってきます。

━━━━具体的にどのように’動機付け’を行うのですか。

そもそも精神領域では、DSMなどの診断基準を用いて大枠に振り分けて診断名を付しており、なにをもって「病気」とするのかという絶対的な基準は存在しないんですよね。そういった意味では患者さんに無理を強いることがあります。こちらから大多数の価値観を押し付けることはナンセンスです。ではどうやって治療が始まるのかというと、「患者が生活をする上で困難がある」ということが前提となってきます。なにか支障がある、問題があるから病気として診断されます。つまり我々が意識すべき点というのは、まずは患者さんを自考させ、気づきを促します。そして、その支障や問題がどの程度改善したかということに焦点化していきます。我々のアプローチとしては「入院や受診までの経緯を振返ること」「最近どうですか」「前より嫌な思いしなくてすんでいませんか」などという質問を投げかけて’自分と向き合ってもらう’という時間をとってもらうことを意識しています。精神科における患者の多くは中核信念といわれる「価値観」にひずみがあることが多いです。そこで、その価値観を患者にとって楽な方向に寄せてあげるために、新たな価値観を模索することが大事になってきます。物がとられたという被害妄想に対して、「もしかしたら安全な場所に置いておいたのかもね」などの様々な可能性を示し、考える余地を広げます。その結果、病気自体が良くなってくることも少なくありません。そういったアプローチは薬ではできません。精神科ではこのような心理教育的な技術が求められます。

━━━━薬剤師それぞれが考え、患者ひとりひとりに合わせたアプローチが求められますね。

その通りですね。患者さんの問題は本当に様々ですので。忘れてはならないのは病棟という「日常」ではない環境ではなく、在宅においてどのような問題があるのかという視点ですね。入院しているときにはわからなかったことが在宅訪問でわかることも沢山あります。それぞれの日常生活での問題を改善するためにはどうするかということを常に考えていますね。

それぞれの視点からのアプローチ

━━━━そのような’患者の日常生活における問題’を知るためには情報共有が必要となってくると思いますが、水口病院ではどのように他の職種と連携をとっているのですか。

精神疾患は「夕暮れ症候群」であったり、うつ病ならば朝に症状が重く出やすいなど1日の中でも波があります。24時間ベッドサイドに控え、時間帯・状況によって症状のチェックできたらいいのですがそうもいきません。だからこそ患者さんの情報を共有して、それぞれの見方で見ることが大切になってきます。例えば看護師は食べる量などを見ていますが、薬剤師としてはよだれが垂れているとか、常時口が開いているなど、嚥下機能について、薬の作用も踏まえて見ています。これらを共有して幅広い視点から患者さんの状態を捉えることが重要になってきます。

━━━━看護師が気づいたことがもしかしたら病気の症状ではなく薬の副作用として出ていることかもしれませんよね。

そうですね。一方で薬剤師は副作用のことばかり考えていると、症状の1つであっても看護師から「それはもともとの習慣です」とか「そもそも日常生活が整っていない」など情報を与えられることで判断できることもたくさんあります。

━━━━看護師や作業療法士とともに在宅に行くことでどのような利点がありますか。

患者さんとしては看護師だからこの質問をする、薬剤師だから薬のことを聞くということは考えていません。当然、「1年目だから」、「この分野に強いから」、ということも患者さんには関係のないことです。訪問看護師も最初から、薬剤師と同行することで在宅医療がよくなると感じていたわけではないと思います。しかし実際の現場では薬についての質問を沢山されていたんですよ。当然他施設で処方された薬を服用している患者さんがほとんどです。そういった薬の整理や相互作用を考えるということは薬剤師にしかできないわけですよ。服用状況が良くない患者もたくさんいます。そこで薬剤師は一包化などの技術を用いてコンプライアンスの向上を促すことができます。つまり薬剤師が訪問に同行することにより、指導が深みを増すんですよね。「お薬についてはまた主治医に聞いときますね」と言ってそこで終わり、患者さんの期待を裏切るのではなく、薬剤師が薬のことについて答え、その場で対処法を共に考えることができることがメリットですね。逆に介護的な面など看護師さんにしかできないこともあります。お互いの職能を活かして、「現場での戦闘力」を上げることが大切であると思います。包括的な医療は個々に行っていたら進まないと思います。これからは同行することによる効果をエビデンスとして示していくことも求められるのではないでしょうか。

 

精神科と聞いてどのようなイメージを持っていますか?

━━━━精神科と聞くと、敬遠されがちな風習が未だにあると思います。そういった世間からのイメージについてどう思われますか。

世間が抱く精神科に対するイメージと実際とのギャップというのは、「無知ゆえの恐怖」であると思います。実態がわかれば適切な対応ができますし、恐れはないと思います。これまでの歴史においては精神疾患を「なんか騒いでいる」「一日中酒を飲んでいる」IMG_5861「失礼なことをしてくる」というように「ダメな人である」と決めつける傾向がありました。それは仕方ないことだと思います。なぜそうなってしまうのかという背景を知らないわけですから。小池くんが学生のうちにインターンに来てくれたようにまずは見るべきであると思います。感じてくれたとは思いますが、思っているよりも精神患者の方は「ふつう」です。おそらく世間のイメージというのは知らないから、最悪の状況を妄想しているだけであると思います。

━━━━そうですよね。僕も訪問や病棟で同行させていただいたとき、最初は誰が患者なのかわかりませんでした。

先程も言ったように、精神疾患には波があります。確定診断が非常に困難な世界です。診断が変わることもしばしばあります。だからこそ、私たちは関わり続けることが大事であると思います。「今日はどう?」その一言が大切であると思います。症状があまり出ていない状態のときに「病気ではないよ」として帰してしまったら二度と病院に来ないかもしれない。関わることのハードルを低くするということが課題ですね。

 

薬剤師が関わることで+αの価値を

━━━━精神科に関わる薬剤師のこれからの展望を教えてください。

動機付けなども含めて患者さんとどうコミュニケーションをとっていくかということが重要になってくると思います。抗精神病薬持効性注射剤(LAI)と経口抗精神病薬では効果の差はないとされています。ただし経口の場合は「アドヒアランスが担保されている場合」という条件がつきます。実際にはそこが担保されていない患者さんが多く、LAIの方がいいという研究結果もあります。つまり、薬を飲めていない患者が多いが故に、注射剤の方がいいという流れがあるわけです。これは薬剤師として恥ずかしい話だと思います。動機をどこまでつくってあげるかによって、薬を忘れず飲み続けることに繋がりますし、自分がそれを必要だと思うようになります。薬剤師がそれを出来るようにならないと「注射でいい」という流れを止めることはできないでしょう。薬剤師が服薬指導に積極的に取り組むことで、「本当に患者のニーズに合った薬が処方されているのか」「日常生活でどのような問題が出ているのか」「副作用は出ていないか」など新たなことに気づくことができます。薬剤師が関わることでプラスαの効果があるということを示していかないといけないと思います。

 

自由にやろう!

━━━━大久保先生の薬剤師としての信念やポリシーなどあればおしえてください。

「自由にやろう」ということですね。あまり自分たちがやる世界を縛ってしまうのはつまらない。日本の医療はまだまだ発展途上です。様々な事情で、できるのにできていないことも沢山あると思います。だからこそ、まず自分がチャレンジしていく精神が大切です。そしたら楽しいじゃないですか!

━━━━自分が実践して、エビデンスを示すことができれば薬剤師も今以上に認められますよね。

我々の世界では「実力を見せる」ということが大事ですね。そのためには勉強をしないといけません。患者さんにとっての可能性を広げるための治療はこれから特に重要になってくると思います。

━━━━水口病院において薬剤師の病棟での業務や患者への関わりを他の職種から認めてもらうために行ったことなどはありますか。

私が働き出したときは、病棟にも行っていませんでした。そこで我々の存在を「ありがたいもの」と感じてもらえるように看護師さんへの勉強会などは何度も開きましたね。薬剤師がどういうことを知っていて、どのようなことができるのかをわかってもらい、薬剤師のメリットを感じてもらえるように努力しました。そこがスタートでした。今もその勉強会は続けています。恩を売れるだけ売っておくのは大切なことですよ(笑)環境が我々の価値を決めるのではなく、自分自身がその価値を作れるのです。

 

学生のうちに「何ができるのか」

━━━━最後に薬学生へのメッセージをお願いします。

学生のうちに「何ができるのか」を知るべきだと思います。どんな医療技術があるのか、職種の域を超えて学ぶことが大切だと思いますね。特に世界に目を向けるべきでしょう。世界では色々な動きがあり、医療は目まぐるしく進歩していきます。逆に教育者はそういった可能性を示すことが大切になってくるでしょう。

━━━━薬剤師のあり方も国によって全く違いますよね。ある程度の処方権認められている国もありますし。

そうですね。ただ、一概に世界のやり方がいいということもありません。例えば精神科の病床数を減らす流れが世界的にありますけど、米国では受刑者やホームレスが爆発的に増えました。日本においてベッド数を今大幅に減らしたらどうなるでしょう?福祉や地域がそれに対応できるでしょうか?在宅医療を支えられるでしょうか?国によって状況や民族性は異なりますし、それぞれにあった医療があるべきだと思います。だからこそ、失策を含めて学んだ上でなにが大切なのかを考えて判断していくべきだと思いますね。
学生は学生らしく楽しく、自由に。学生生活を邁進してください。

インタビュアー:広報統括理事 小池 雄悟(立命館大学4年)