“ゆずれないもの”を持っている薬剤師に


日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)会長 遠藤一司先生インタビュー
“ゆずれないもの”を持っている薬剤師に
〜1人では絶対にできないがん治療〜

遠藤一司先生ご略歴
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━━━薬剤師として普段どのような想いを持って、またどのようなことに気を付けて医療に携わってきましたか。

30数年薬剤師をやってきましたが、病院薬剤師になった当時は病棟で患者さんに関わることはほとんどなく、調剤室の窓口だけでした。私は病を持っている患者さんに「何かをしてあげたい」という思いをとても強く持っていました。というのも、私自身ものすごく体が弱かったんですよ。しょっちゅう病院にかかったり、入院したりすることが多かったのですが、そこでいろんな医療者を見ることができました。自分にとって良い医療者も悪い医療者いましたが、自分自身は患者さんにとって良い医療者になろうという気持ちはずっと持っていますね。

また、「患者さんには手を抜かない」という気持ちでやっていました。私が薬剤師をやっていたころは、薬物治療そのものが医者任せで、適正使用とはいえない薬物治療が頻繁に行われていた時期がありました。たとえば、抗生剤の使い方が今で考えればむちゃくちゃで、長期間使っている例もありましたね。実際に病院でものすごく長期間抗生物質を使っている患者さんを見に行くと、全身にいろいろ湿疹がでていて、検査値をみても明らかにおかしい患者さんがいました。そこで私は皮膚科の先生の所に、発疹などの原因は薬のせいなのか診断してもらおうと頼みに行きました。そうしたら皮膚科の先生からは「私の患者ではないし、薬剤師から頼まれて僕が見に行くのは医者のルールとしては出来ないよ」と言われました。それでも私は『内緒にしておくからとにかく行きましょう』と言って皮膚科の医師を患者さんの元へ連れて行きました。結果的にそれは抗生物質による薬疹だったんですよね。私は皮膚科の先生に見てもらったことは伝えず、その患者さんの担当医師に、明らかにおかしいので、「一回薬剤を中止して様子を見ませんか」と言いました。その時は若さもあったので、恐れもなく色々言えたということもありましたが、なんとかして患者さんのために薬学的な知識や自分の技術を活かしたいという思いが何より先行しましたね。

 

 

━━━日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)で理事長を務められている理由を教えてください。

病院勤務の最後のキャリアは、がんの患者さんの治療を専門にしている国立がんセンターでした。がんの薬物治療は他の慢性疾患の治療とは違い、奏効率も低く、副作用も強い。「薬剤師が積極的に治療に関わって、副作用を抑えながら、がん治療を継続出来ないか」「がん治療に携わる薬剤師がともに考え、連携し、研究し、みんなでがんの治療を安全かつ効果的に行えないか」と思っていました。私ががんセンターにいる時に、がん専門薬剤師の研修制度が始まりました。私自身その制度を作る委員をしていました。がん専門薬剤師の研修を国立がんセンター東病院でも受け入れをはじめ、3か月×3クールで1年に15人ずつ程度行っていました。それが数年続いて研修生は増えてきましたが、研修をして終わりではなく、「研修生同士で繋がったり、研究をしたりできたら良いな」と思っていました。そこで、研修生のメーリングリストを作ってみんなで考えたり情報交換をしたり、情報共有を始めました。そしてそれが研修生だけでなく、がん治療に興味のある人も入ってきて60~100人くらいになった時に、がん関連の学会に参加した後の懇親会で学会を創ろうという話になりました。当時がん治療に携わっていた仲間に声を掛け、1年間だけ研究会という名前で学会を作ったのがはじまりです。がんの学会はいくつもありましたが、薬剤師主体の学会がなかったので、薬剤師主体でがん治療を考える学会を作りたいと思ってみんなに声をかけました。作った当時は200人くらいでしたが、5年たった今は約2000人以上になっています。作った当時自分が一番年上だったので理事長をやっていますが、実際は若い人たちが中心になってこの学会を運営してくれていますよ(笑)

 

━━━癌治療に携わる薬剤師の業務について教えてください。

大切なことは、
・安全に治療を進める
・患者さんの状態を聞いて支持療法を行う
ということです。がん治療はエビデンスのある治療をしたからといって全員が治るわけではありません。特に再発をしている場合は、治らないことも多いので、患者のQOLを考えなければなりません。がんというと、「治らない病気」「がんになったら亡くなってしまう」というイメージを持っている人もたくさんいます。外見は明るい患者さんもいっぱいいますが内面はとてもつらいと思います。治療だけではなく、心も踏まえて患者さんを支えることが必要になってきますね。

がんの薬物治療は薬剤師から見ると、薬学の知識を全て活かせる治療だと思います。治療そのものが難しく、奏効率も低いし、どのように使うかによって効果も変わってきます。そこで抗がん剤の適正使用や副作用の軽減などに薬剤師は積極的に関わるべきだと思います。

他の疾患、例えば高脂血症(脂質異常症)のような生活習慣病の場合、生活習慣そのものを変えてもらう必要がありますが、薬物治療だけを考えると、今日においては副作用もとても少なく、きちんと服用してもらい、検査値を調べて、安定していればそれで問題ありません。たとえ副作用が出たとしても重篤な副作用が起こる確率は高くはありません。

しかし、がんの場合は、治療を始めた時に、「吐き気がしたり、髪の毛が抜けますよ」と薬剤師が説明した通りに副作用が出てきます。高血圧治療薬のように、副作用が出たり、効果がなくなったりした場合には、別の薬に変えればいいというわけにもいきません。そのため、副作用が出ても、それを抑えてメリットとデメリットを考えながら、治療を続行しなければならないのです。そこで薬剤師が、薬学の幅広い知識を全て活かしていけば、なんとか治療を継続していける可能性も高まります。そんなところに薬剤師としてとてもやりがいがありますね。本当は治るのに治らなかったというケースもまだあります。再発した場合は特に。薬剤師が薬学的知識のフル活用と、患者さんを支える心のケアも合わせてやること、それこそががんを扱う薬剤師の重要なことです。どの治療も患者さんに寄り添うという点において違いはありません。しかしがん治療は特に心のケアが大事になってくると思います。

━━━心のケアも含め、患者さんと関わる上で重要なことを教えてください。

一番大変なのは、患者さんが何も話してくれないことです。つらい思いをしていても薬剤師の声かけに対して全く答えてくれない患者さんもいます。治療を頑張っていたときに再発の宣告を受けたらショックは大きいですよね。そんな時に薬剤師が薬物治療の説明をしても患者さんは頭真っ白で聞きたくないかもしれないし、頭に入ってこないと思います。パニックになっている時の関わり方はすごく難しいですね。そのような患者さんにどうやって関わって、寄り添って、信頼を得ていくか。やはり薬剤師がそばにいることで、「治療が上手くいく」ですとか、「心を支えてもらえる」ということを患者さんにわかってもらう必要があります。

私が勤務していた病院の薬剤師レジデントの担当患者さんで、全然しゃべってくれない人がいました。そのレジデントはその患者さんを毎朝訪ねて、挨拶や声掛けを一週間ほど続けたところ、やっと話してくれるようになりました。誰もがみな同じようになるわけではありませんが、患者さんにわかってもらいたいという姿勢が大切です。

服薬指導=薬の説明をしにお話しに行くというイメージをもった薬剤師もいますが、そうではありません。一回聞いたら、もう同じ説明はいらないという患者さんもいます。逆に何度も説明しなければ理解できない人も当然います。

服薬指導は、最終的な目標は薬物治療の効果を最大限にすること。行われている薬物治療が患者さんに合った薬物治療で、効果があるか、副作用をいかに軽減できるか、治療内容を理解してもらったうえで、積極的に患者さんに治療に参加してもらうためにあります。

例えば痛みは検査値など数字で表せません。患者さんにしか痛みの程度は分かりません。薬剤師が患者さんにきちんと説明をして、さらに患者からの情報を聞き取って、適切に薬を使用してもらう必要がありますよね。副作用に関しても早めに患者さん自身に気付いてもらえば対応がスムーズに行われる。その為に話をしに行くんです。話をすることが目的ではありません。患者さんが百人いたら百通りの治療の方法があります。

100人をみた薬剤師と300人みた薬剤師、全く同じ症状の患者さんはいないにしても、経験から次に対応できる力が違ってきます。たくさん患者さんに会っている薬剤師のほうが、より多くの手立てが考えられるでしょう。最初からうまくはいくわけはありません。しかしいろんな患者さんと会って、自分の知識を活かせるかどうかは、経験も含めて対応していかなければなりません。医療者である限り誰にでも失敗はあります。失敗しても、経験したことを次に活かす、ということを繰り返していくことが必要です。大事なことは2度と同じ失敗をしないようにすること、経験を次に活かすことですね。

━━━薬剤師が癌治療に携わることに対して、患者さんや家族、他の医療従事者からはどのようにとらえられているのですか。

がんに関わっている薬剤師の多くは、他の医療従事者からは高く評価されています。なぜなら、がん治療は一人ではできないからです。また、がん治療を行う医師は、薬剤師はなくてはならない存在だと言います。

このように評価されるようになったのは、がんの認定、専門の薬剤師が登場し、その名に恥じないように必死に勉強し治療に関わり、自分の発言に責任をもっているからでしょう。ただ患者さんやそのご家族の方から評価は患者さん個々人の評価によります。1ついえることは、薬剤師が知識をしっかり持っていても、うまく患者さんとコミュニケーションがとれなかったり、気持ちを汲み取れなかったりすると、当然患者さんやその家族からは認めてもらえませんよね。患者さんが何を求めているのか、できるだけ分かろうとする、気持ち、姿勢が大事です。

米国は腫瘍内科医というがんの薬物療法の専門医がたくさんいますが、日本においては外科医ががんの薬物療法を行っていることが多いのです。日本でも徐々にがんの薬物療法の専門医である腫瘍内科医が認定されていますが、まだ米国の1/100くらいですかね。基本的に外科医は手術室に入っている場合が多いので、投与する薬を決めただけじゃ治療は進みません。副作用への対応も当然重要なことです。このような点から日本では米国よりも薬剤師が積極的にがん治療に関わっていく必要がありますね。

 

━━━今後は高齢者も増えがんの外来が増えていくと思いますが、それに対して薬剤師どうしや医療職種どうし、またはその他地域の様々な職種とどのように連携していくべきですか。

がん治療は、今後もさらに通院で行われるようになります。外来化学療法室で抗がん薬の注射剤による治療を受けて、副作用対策の支持療法薬を薬局で受け取って帰宅する患者さんや経口抗がん薬で治療を受ける患者さんや注射と経口薬を併用する患者さんなどがますます多くなってきます。今もそうですが、薬局に持参される処方箋一枚だけではがんの薬物療法の全体が不明です。そのため、医療機関と薬局とで治療の情報を共有したり交換する必要があります。薬局薬剤師も今以上にがん患者さんと向き合う必要があります。場合によっては、患者さんに電話をして、副作用が出ていないか、抗がん剤を指示通り服用しているか確認する必要があります。時には医師に情報提供したり、患者さんに受診を勧めたりする必要があります。発生する副作用によっては一刻を争う場合もあります。自宅には、入院時と違って医療者はいません。患者さんと家族で対応する必要があります。一番身近な薬剤師が必要とされます。

普段から病院と薬局の薬剤師と一緒に勉強したり情報交換することが重要です。JASPOでは、薬局、病院の両方の薬剤師が取得できる外来がん治療認定薬剤師を認定しています。現在300名を超えました。実務経験3年以上で認定の取得が可能です。がんに興味がある薬剤師には、日頃よりがんに関する知識を取得し多くのがん患者さんと関わり認定を取得し、自分に自信を持って欲しいと思います。

 

━━━私たちが現場で働くようになった将来、5年後、10年後のがん治療の展望をおしえてください。

今の現場の薬剤師は患者さんの治療に精一杯向き合っていると思います。がんの認定や専門の制度もこれからさらに充実していくことが求められます。また臨床研究ができる薬剤師が増えてきてほしいですね。がん領域の医師は治療における質の向上を目指して、今まさに研究を進めているところです。これからは臨床に関わる薬剤師も、病院薬局関係なく、次につながるようなエビデンスを見つける。自分たちで研究を企画し、論文を書き、次の世代や周囲に伝えていくことが必要です。

昔は調剤室にこもっていた薬剤師が、今は患者さんの治療に積極的に関わっていこうとしています。そのような動きが広まってきてはいますが、次は関わりを結果として残していくことが必要ですね。

 

━━━日本臨床腫瘍薬学会のご案内などがあればお願いします。

がんは死因の1/3を占めます。がんは身近なものであり、がんになっても治療を継続して、治らなくても長生きできる時代になってくるかもしれません。新しい薬もたくさん出てきます。治療自体もどんどん変わっていくでしょう。この分野は薬学的な知識も活かせるし、患者さんに対してのケアも学べる。薬剤師としての技術、知識をがんの領域で学べば、他の領域でも活かせるので、一時的でも良いので、ぜひがん治療について学んでほしいと思っています。次回の日本臨床腫瘍薬学会の学術大会が3月18日・19日に新潟で行われますし、がん治療の初心者向けのスタートアップセミナーなどもおこなっています。是非一度参加してほしいと思います。

 

━━━最後に今の薬学生に対してメッセージをお願いします。

若い時はいろんなものに興味をもって、いろんなことをやってほしいですね。社会の中では優れた能力を持っているのに、周囲に合わせ丸くなって、その中でおさまってしまうことがしばしばあると思います。組織に素直になりすぎてしまうといいますか・・・。組織から少しはみ出るくらいのトゲがあっていいと思いますね。若い時に素直に考えたことの中に大事なことはいっぱいあります。はみ出るくらいに積極的な活動をするのがいいと思います。若い時の失敗はいくらでもやり直せます。薬剤師になろうと思った時の気持ちや、将来どんな薬剤師になろうと思っていたかを、薬剤師になった後も忘れないでください。

医療はどんどん進歩していきます。「自分たち若い世代が変えていく」、「自分たちが上の人を変えてやる」くらいの気持ちでやるべきです。そのためにも大学時代に様々なことに興味を持って、たくさんの人とふれあってほしいですね。学生同士の横のつながりとともに教員をはじめとした社会の幅広い年齢の人々との縦のつながりも大切にしてほしいです。

全体写真 2また、自分のライフワークを作ると良いでしょう。「これは得意だ」「このテーマについて極めたい」ということを持っていると人生は充実すると思います。

丸くならない薬剤師に!

‘ゆずれないもの’をもっている薬剤師の方が、存在感が増しますし、評価もされます。また自ら積極的に考え、発信していくことで、責任感も出てきます。やれば失敗はあるけれど、やりたいことを一回はやってみて、同じ失敗を何度もしなければ大丈夫です。皆さんの若い力に期待しています。

インタビュアー:池田大河(東邦大学6年), 吉本愛梨(慶應義塾大学2年), 浅沼咲子(武蔵野大学4年)