“優しいツアーコンダクター”、”頼れるPTA会長”に

栃木県薬剤師会会長・全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
大澤光司先生インタビュー

“優しいツアーコンダクター”、”頼れるPTA会長”に

大澤光司先生ご略歴
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━━━━それではまず、ここ数年での薬剤師の移り変わり、現状について感じていることをお聞かせください。

時代は随分と変わりました。私が薬剤師になったのは30年以上前のことです。当時は医薬分業率が5%ほどで、薬は病院で貰うのが当たり前。
「なぜ薬局でもらわなければならないのか。」「面倒くさい。」「値段が高い。」━━━日々このようなことを言われていました。私が薬剤師4年目、25歳になり薬局薬剤師を始めた時ですらこのような状況でした。それ以前にもなると、当然調剤も少しはやっていましたが、ほとんどの薬局がOTCの販売を中心的に行っていました。
池袋近くの茗荷谷の紫山堂薬局では、規模は大きいもののいわゆる昔ながらの薬局で、調剤は5%ぐらい、眼科の処方箋だけ少し受けていました。あとは販売が3割ぐらいで、残りの65%ぐらいが雑貨の販売と化粧品。そういう薬局だったんです。いわゆる今でいう「ドラッグストア」のようで、ただチェーン展開せず一軒一軒やっている、調剤はほとんどやらないで、売り上げの多くは雑貨と化粧品。当時はこんな薬局が少なくありませんでした。

そんな中で、栃木で開業することになり医薬分業をやってみたんです。しかし当初は「面倒くさい。」「高い。」とクレームばかり。
ただ、半分言われても仕方ないかなという気持ちも無くはなかったです。当時、一応薬の説明はしていましたが、調剤薬局の仕事は本当に薬を数えて出すだけだったので。
なぜこんな状況だったかというと、まず当初は”薬歴”という考え方がありませんでした。信じられないですよね、今は薬歴が無いと仕事ができないのに。
コンピュータもメモリーが少ないし、パソコンの前のオフコンという時代でデータの容量が少なすぎて、1ヶ月間患者さんがいらっしゃらない間にデータが消えてしまったり、処方データが消えてしまうという、そんな状況下で、とんでもない調剤をしていました。
そういう時代に、私はたまたま雑誌で薬歴簿の存在を知りました。当時は点数がつきませんでしたが、たまたまその後5点という評価がつくようになり、今では更に上がってきました。お薬手帳も同じです。今では当たり前のお薬手帳も当時はありませんでした。あれも、時代の流れの中で評価されるようになってきたのです。
そういう色々な時代の流れがありました。
昔は、調剤室に色鉛筆が置いてあり、絵を描いて薬と一緒に渡していました。これが30年経って今の体制になり、薬剤師が薬の説明をすることが当たり前となり、それに伴って薬剤師の職能も分かりやすくなってきたんです。

一方で、患者、市民、他職種からみると、医薬分業が急速に伸びたことで、「薬剤師の仕事って、薬を数えて入れるだけ」と極端な解釈をとられるようになってしまいました。
ドラッグストアに行っても誰が薬剤師か分からない、というように、薬剤師の役割が極端に調剤に偏ってしまいました。
これはある意味でありがたいことです。昔は薬剤師の「調剤」という職能が発揮出来ていませんでしたが、今はそれが発揮できるようになり、お金が貰えるようになったということですから。
ただその一方で、それが行き過ぎてしまいました。
これの何が弊害かというと、地域包括ケアシステムをやる上で、薬剤師は色々なことが出来るのに、一般市民の方からそれを認識してもらえていないという点にあります。

そもそも、薬剤師は以下の4つをバランスよくやる必要があります。
①ファースト・アクセス
:セルフメディケーション、健康支援業務
②チーム・アクセス
:在宅医療、在宅復帰・QOL確保、医療安全、コスト適正化
③ソーシャル・アクセス
:地域活動、国民との協力・啓発、24時間・災害等体制、学校薬剤師・薬乱防止
④ラスト・アクセス
:調剤業務、医療安全、適正使用、コスト適正化

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ただ、現状ではラスト・アクセスだけが強調されてしまい、「薬剤師の役割=ラスト・アクセス」が、市民、他職種の認識になってしまっています。これからは、以上4つをバランスよくやる必要がありますね。

 

━━━━薬剤師としての在宅業務や、その業務の意義について教えてください。

まずは、地域包括ケアシステム(チームアクセス)における薬剤師の役割についてまとめてみましょう。

①セルフメディケーションを含む薬物療法を安全かつ効果的、効率的に行うために薬の専門家としてアドバイスを行う。
これは、ジェネリック医薬品の有無や残薬問題の解決などに直結します。

②介護者と医師の間に入り、スムーズな情報交換の橋渡し役になる。
これも重要です。実際に現場で患者に接しているケアマネージャーさんでは薬に関して自信を持つことが出来ません。その不安は薬剤師が埋める必要がありますよね。

この2点が大きく分けてチームアクセスにおける薬剤師の役割と考えられます。

ただし、実は在宅を始める前に、そもそも薬剤師に在宅の依頼が来ない。言われないから行かないという薬局も多いでしょう。
では、在宅を始めるにあたり、どういった型があるのかもまとめてみましょう。

A:医師の指示型
一番多いです。しかしそもそも在宅をやっている医師がいないという点が問題点ですね。

B:薬局提案型
ハードルが高い型になります。在宅医療を受ける側としても、いきなり薬剤師に訪問されるのも困るし、薬局内だけで患者の問題を見抜くというのも難しいですよね。

C:多職種提案型
患者のことをよくわかっているヘルパー、訪問看護の方など、ドクターがいなくても在宅には色々な人が行っています。ケアマネージャーさんに薬のことは薬剤師に相談すれば良いと分かってもらえれば、薬剤師が現場を吟味し、ドクターに声をかけることもできる。この型の流れが一番大事だと思います。

D:退院時カンファ型
薬が多く自分で管理する事が難しそうな患者さんが退院するときには、患者さんの家の最寄りの薬局と連携を取り、薬を適切に服用し続けられるようにするという型です。

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では、最も対象者が多いCパターンを普及するために、ケアマネさんにいかにアピールするか、という話になりますが、私は二つのキーワードを使っています。

①優しいツアーコンダクター
優しいツアーコンダクターの業務:
旅行に行くだけなら、誰でも、いつでも、好きな所に行ける。でも、安心、安全に行くためにはツアーコンダクターの意見が重要になります。
これを薬に置き換えると
薬を単に「飲む」、「飲ませる」なら誰でも出来る。しかし安心、安全に「飲む」「飲ませる」ために薬剤師の役割(視点)が重要ということになってきますよね。

在宅での服薬時の援助はどうしているのか知っていますか?
認知症の人で8割、認知症でない人で7割の人が援助をして服薬しています。
そして、どのような援助をしているか?という質問の3位に「飲みやすく工夫(ごはんにまぜる、粉砕する、カプセルをはずすなど)」という回答が挙がっています。薬学的な観点ではやってはいけないことが在宅では当たり前におこなわれているのです。

②頼れるPTA会長
頼れるPTA会長の業務:
学校内でのトラブルや不満を感じた親御さんがPTA会長に頼んで学校側に伝えてもらうことが出来ます。
これを薬に置き換えると
多職種にとって薬に関して医師へ提案する事は極めて困難です。そこで薬剤師は多職種と連携して、薬の問題を探り、医師にフィードバックすることができます。

在宅における薬剤管理の実態調査の結果、薬の量が多いために飲めない、飲み忘れることが多々起きているということが判明しました。
スライド262013年東京都の調査では、3種類以上呑んでいる人が75%。彼らは飲んでいない可能性がかなり高いと考えられます。

在宅業務における薬剤師の役割として、ポリファーマシー問題の解決が挙げられますが、ここでその例を見てみましょう。
昔、余命数週間と宣言された患者さんがいました。その患者さんは、入院する場合は面会謝絶と言われ、自宅に帰ることを決意します。そこで問題になったのは1日14種類、37錠の薬。医師に要請された薬剤師が自宅へ訪問すると、患者さんの自覚症状は熱が高い、咳が止まらないだけで、多くの薬を飲む事が大変だと困っているということが発覚したんです。そこで飲み込みづらい大きな薬をなくし、解熱剤・咳止め薬以外の薬を大幅に減らして6種類11錠にしました。結果、患者さんは喜ばれ、調子良く予後を過ごされたそうです。こんな信じられないことが現場ではたくさん起きているんです。

次に、資料の残薬写真集を見てください。


これは、外用薬投薬制限ができる原因にもなりました。
残薬の中には、麻薬が残っていた例もあります。痛みは我慢せずに痛み止めを飲む必要があるのに残ってしまっていたということです。患者さん、またはヘルパーさんが、麻薬はあまり飲まないほうがいい、と過った思い込みをしてしまっていたのかもしれないですね。
そういった残薬が溜まった結果、年間3300億円分無駄になっている、というデータも出ています。

こういった現状で、飲み残し薬を減らすための根本的解決策2本柱というものがあります。
1)事前対策(残らないための予防策)
多剤処方を出来るだけ減らし、服用方法もシンプルにするという策です。
また、医療機関受診時、残っている薬を医療機関または薬局に持参してもらい、その結果薬局で飲み残し薬が判明した場合、薬剤師は医師にそのことを伝えることができます。

2)事後対策(残ってしまったあとの解決策と再発防止策)
何が原因で残ってしまったのかの理由を明確にすることが重要です。原因別に誰が、どう関われば有効なのかを検討し実行していきます。

何より、患者さんが出来る限り「かかりつけ薬剤師・薬局」から薬をもらうようにすると、そういった薬を整理してもらいやすいです。自分の信頼のおける薬剤師・薬局を決めておくことが大切ですね。

ポリファーマシーに関連して、高齢者と薬剤管理における二つのポイントも整理しておきます。
①飲みやすくする工夫:薬剤師担当
飲む回数、剤型、一包化等(飲み忘れ、飲み誤りを減らすため)
②見守りやすくするための工夫:訪問看護師さん、ケアマネージャーさん、他の皆様
多職種での見守り

更に、薬剤師が在宅で出来ることとしては以下の4点が挙げられます。
1)飲み合わせのチェック
2)飲み合わせ、飲み誤りの改善
3)副作用の早期発見
4)飲みにくいお薬を飲みやすくするための工夫

また、薬剤師単体だけではなく、薬剤師間・多職種間での連携事例として、茨城県内では蔵の街コミュニティーケア研究会(以外こみけん)が挙げられます。

介護保険が始まった2000年4月、8人会からスタートしたもので、発起人の1人である、介護保険担当行政官は介護保険がはじまる4年前から、社会的入院から自宅療養への移行に伴う地域の介護力の強化、連携の必要性を感じ、医師・薬剤師・社会福祉士・保健師・介護福祉専門学校講師・民間介護事業者・工務店経営者・介護保険担当行政官からなる発起人(8人会)を集めてくれました。この研究会の設立趣旨は、在宅介護を支えるため、医師、看護師、薬剤師などの専門職だけでなく、地域に暮らす全ての人々全体の介護力を高め「幸せに生きる」事が出来るコミュニティーの実現を目指すというものです。
これはとても崇高な目的ですが、地域包括ケアそのものを示しており、地域包括ケアが始まるかなり前からこみけんはこの大切な目的の下で活動してました。95回の例会、懇親会を通して、栃木では顔の見える連携が当然のようにできるようになっていったのです。

例会における過去の講演内容は以下の様に様々です。
・地域で支える福祉とは何か(医師)
・ちょっと役立つ薬の話(薬剤師)
・口から食べるから元気になる、口腔リハビリショー
・あなたのお家に帰ろうプロジェクト(在宅ターミナルケア)

懇親会では必ず毎回自己紹介をし、自分の役職、所属、今日の感想を共有します。これによりお互いの存在を認識し、地域連携を強めることができるのです。

こみけんを通して感じたことは、次の3つです。
①コミュニケーション作りの大切さ
コミュニケーション作りをすることで、何でも何時でも、気軽に相談することができます。
②自分の専門分野以外の知識を得る
③コミュニケーションは飲みニケーションの大切さ

また、薬剤師としての意識の変化もありました。
活動前は、介護のことは苦手で患者様から何か聞かれたらどうしよう???と思っていましたが、今では介護のことは詳しくはわからないけど、誰に聞けば良いかはよく分かっている!だから、たいていのことは聞かれてもOK!と思えるようになりました。

さらに、県外の例では、J-HOP(一般社団法人 全国薬剤師・在宅療養支援連絡会)が挙げられます。
J-HOPは2010年に設立し、
・相互理解
・情報共有
・他職種研修紹介
・研究参画
など様々なことに取り組んでいますが、一番やっていることは相互交流です。誰かが何か聞けば必ず素早いレスポンスがかえってきて大変便利な交流の場となっています。

━━━━栃木ではほぼ完全な形で地域包括ケアシステムが成り立っているそうですが、今後の先生の展望は何ですか?

J-HOPなどを通して啓蒙活動は続けています。ありがたいことに話を聞いたいと思っている人が全国にはたくさんいますので、伝道師のように今回話したようなことをスライドを持って全国を回っています。まず私が対象としているのは薬剤師です。薬剤師に知ってもらうことが一番大切だと思っています。次に地域の他職種の皆さん、そして市民。彼らに薬剤師の役割や地域連携の重要さをわかってもらいたいと考えています。
全国で話をしていると、いかに薬剤師の役割・仕事を分かってもらえていないか、身に染みて感じられるんです。ほんとに今まで申し訳なかったなとも思います。やはり処方箋がないと薬局には入れない、処方箋を入場券のように思っている患者さんもたくさんいます。これからは薬局も変わらなければならないのです。
確かに今の薬局はとても入りづらい。実は昔の薬局はドアもなく、ティッシュなどの日用品や薬が山積みになっていて入りやすいものでした。これからは、薬局の在り方も考えて行くべきだと思っています。

━━━━多職種連携を進める上で今後どんな職種のかたと関わっていきたいですか。

すべての職業と連携していきたいですね。例えば栄養士さんもとても豊富な知識を持っています。メディカルグリーンは、ちびっこランドや老人ホームもやっています。現在は、リハビリに精通している方や栄養士さん、保育士さんを雇ってワンストップサービスを提供できる薬局にしています。
何でもかんでも薬剤師が相談に乗る、というのは違います。それは、ほかの職種の人が薬について説明・相談にしているのと同じになるからです。結局、多職種連携がみんなにとって一番楽な方法で、自分が苦手なことをやるから失敗するんですよね。自分が得意なことをそれぞれがやることで一番良い形になりますから、なるべく全ての職種と連携することが大切です。それがお互いのため、とくに患者さんにとって一番楽な方法だと思います。

━━━━薬剤師の役割 = 医師看護師の負担軽減という考え方についてどう思いますか?

言葉も言いようですよね。「負担軽減」っていうのは今それをやっている人が負担に思っているということになりますが、もともとやらなくてはいけなかったことを薬剤師がやらないために迷惑をかけてしまっていたという考え方もできます。
医者の教育の中にどれだけ薬の内容が入っているんでしょうか?実際は、薬剤師の教育の10分の1もないです。それを医師が全てやろうとするなんてもともと無理なことです。それなのにこれが日本の習慣でした。
一方、逆の観点からすれば、「負担軽減」という言葉は柔らかくていいと思います。私たちの仕事なんだから任せてくれ、というよりも、大変でしょうから私たちがやります、といったほうが柔らかくていいのではないでしょうか。

━━━━患者さんや家族、他の医療従事者から現状どのような評価を得ていると感じますか?

他職種の皆様から頂くご意見は、
・薬剤師が在宅に来て何が出来るのか?
・薬剤師の顔が見えない
・在宅に行ってくれる薬剤師はどこにいるの?
といったものが現状です。

では薬剤師の在宅業務を推進するためにはどうしたらいいのでしょうか?
まず、多職種、そして行政、市民等へのPRが非常に大切です。市民の方にいかに薬剤師が必要と思ってもらうかが重要になってきます。
例えば、薬剤師が病院で入院患者のもとに行き点滴の説明をきちんとする。そうしたら在宅に移って看護師さんが何の説明もなしに点滴を始めることに違和感があるはずです。逆に現場で薬剤師が在宅に関わっていれば、入院した時には薬のことは薬剤師に説明してもらいたいと思ってくれるはず。これからはこの市民と薬剤師の相互理解を深めていきたいと考えています。

━━━━在宅医療の今後の展望についてお聞かせください。

日本の人口ピラミッドは急激な変化を続けており、2060年には64万人が100歳以上になると言われています。人口ピラミッド85歳以上だけがこれからどんどん増えてくるのです。85歳以上では半分以上が要介護状態になってしまいます。これは日本の構造的な、極めて深刻な問題です。
また、2010年には、80%以上の方が病院で亡くなりました。これは日本の常識、世界の非常識です。
福祉の先進国オランダでは、35%が病院、33%が高齢者施設、31%が自宅等で看取られています。日本においてもこのようにすべて3割前後になるのが理想ではないでしょうか。

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━━━━最後に、薬学生に対するメッセージをお願いします。

今、薬剤師に求められる能力は変化してきています。

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今まで求められてきた条件・能力は
・薬剤師資格
・処方箋どおりの調剤
・スピードと正確さ
・わかりやすい服薬指導
などでしたが、これから求められる条件・能力は、これらに加
・多職種と連携する力
・自ら考える力
・変化に対応する力
・高い人間性
などが必要とされていきます。
薬剤師としての自覚と自信そして責任感を強く持ってください!
これからは、患者さんから安心と言ってもらえるコミュニケーション能力、人間力が必要となります。これらのスキルはなかなか大学教育では教えてくれないです。
リッツカールトンホテルの高野登さんによると、「気遣う相手の気持ちを理解する力を身に付けるためには、まず褒める、認めるような風潮がある組織・職場を見つけることが大切。つぎに良い書物を読むことが大切。」だそうです。
在宅にあるかもしれないリスクや無駄を解決し、それがやがて普通に出来ていくような環境を作る力が求められます。

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インタビュアー:池田大河(東邦大学6年), 浅沼咲子(武蔵野大学4年), 吉本愛梨(慶應義塾大学2年)