健康な人を、より健康にできる薬剤師


神戸大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
平井みどり先生インタビュー
健康な人を、より健康にできる薬剤師
在宅薬学会講演
[平井みどり先生ご略歴]

━━━━━平井先生は医師免許と薬剤師免許の2つを持っていらっしゃいますが、なぜ薬学の道で活躍されることを選んだのですか?

よくそれを聞かれるんですが、なんでみなさんそれを聞いてくるんでしょうね(笑)
基本的に医師は病気になった人しか見ない。でも薬剤師は健康な人にアプローチすることができますよね。病気になる前の人たちを対象にすることが可能です。もちろん医師もそういうことはできますが、それよりもしなきゃいけないことがたくさんあるから。だから、まだ病気ではない人へのアプローチは薬剤師の一つの重要な使命であり、やりがいのあることですね。

━━━━━確かに、未病からのアプローチということを考えると、薬局は地域に近い存在ですし、アプローチしやすいですし、これからの医療を考えたら薬剤師がそこに積極的に関わっていくべきですよね。

そうですね、そういうところをこれからの薬剤師は考えて目指して頂きたいです。というものの、何故私が医者をしていないというと、”たまたま”なんです。もともと医者になるつもりはなく、たまたま医者の免許を取ることになってしまいました。結婚したとき、旦那が「自分は医者になるのは嫌だけど、家に医師が欲しい」というのでなったんですよ。
たまたま、医学部に行って、卒業した時点でまだ子どもが小さかったので、研修せずに大学院に行ったところ、指導教授から、「今から医者になるのにも10年かかるから、ここ(神戸大学医学部附属病院)の前任の薬剤部長を紹介するから、薬剤師として働いたら?」と言われ「研究ができるならいいかな」と思い、薬剤師として働き始めて今に至ります。人生はたまたまですよ(笑)

━━━━━私もたまたま薬学部にきましたが、今では薬剤師という職で将来医療現場に立てることを誇りに思ってます。そこでこれからの医療を考えた時「医薬分業」を見つめ直すことが求められると思います。平井先生はダブルライセンスということで、医師、薬剤師両方の視点をもって働かれているかと思いますが、先生の考える「真の医薬分業」とは何ですか?

目指すところは医者は診断をやって、あとの薬物治療はすべて薬剤師に任せるというものだと思います。だから、院外処方箋を出したら医薬分業というわけではない。現在は制度が先立って、その制度に乗っかって進めるようにしているので、いろいろな部分にひずみが生まれているんですね。そうしたいわけではなくても、制度があるからそうならざるを得ないということが多々ありますね。だから、真の医薬分業を目指すのであれば、制度から見直す必要があると思います。

━━━━━例えばどのようなものがありますか。

今は院外処方箋を奨励するためにそこに点数がついているじゃないですか。そういう加法的なことを全て取っ払って、診断や治療計画は医者がやる。ではどの薬を使うのかっていうのは薬剤師が決めるという風にしたら、医者が書く処方箋というのは今の形とは全く違うものになるはずで、それは制度を変えなければいけないんですよ。

━━━━━そういう形になれば、医者側も助かるのでしょうか?

病院の場合はそうですね。
といっても色々な医者がいて、薬も全てきっちり自分が決めるという医者もいれば、手術だけは自分がやってあとの薬は誰か考えてくれ、という医者もいる。「医者」と十把一からげには言えないところがあります。ただ、一部のどの薬がよいとか、副作用がどうとか言うのは誰か考えてくれというドクターがいるわけですよ。というのも医者は専門に特化している分野、外科なんかだと、手術は自分でやるが、術後管理は誰かやってほしいっていう方はいますね。

━━━━━薬学部で特に重点的に学習している部分、特に薬物動態学や製剤学などは医師もあまり勉強していないと思うので、そういう面で助けることはできますよね。

そうですね。ただそういった部分に詳しい医師もいます。そういう分野が大好きで、すごく勉強する医者もいますが、当然そうでない医者もたくさんいます。薬剤師がそれぞれの医者に合わせてやっていくことが大切です。

━━━━━「薬剤師はこういうことをする」という風に決めつけず臨機応変にすべきですよね。

そうです。今は薬剤師はいろいろな事ができるので、その能力を使って、医療従事者、患者さん、それぞれの状況に応じて、持っている武器を提供するということが大事ですね。

━━━━━やはり。医者と薬剤師の理想的な関係は、持っている武器を生かしてでお互いができる部分をやっていく、ということでしょうか。

そうですね、お互いに仕事が違いますからね。

━━━━━では、そういったことも踏まえて、近年薬物治療などの面から、病棟に出ていき活躍するようになっていますが、神戸大学医学部附属病院で薬剤師はどのように働かれているのでしょうか? 具体的な部分を教えてください。

先ほども言った通り、一部ではどの薬を使うのかの決定を薬剤師がやっていたりします。多くの病棟では、入院患者の持参薬をチェックし、必要なもの、そうでないものを振り分け、入院中の治療薬についても予備入力しておきます。それを見て医師がOKすれば処方が出ますし、一部変えたかったらそこで変えてもらうという形を取っています。持参薬は院内で使用してはいけないので、再度院内で処方しなければいけません。その時に、持参薬と同じものが院内にあればそれを使いますし、成分が別でもメーカーが違うものであれば置き換えなければいけません。そこは全て薬剤師がやっています。その時に処方構築の支援をしているんですね。

━━━━━そういう部分で、医師だけではなくいろいろな職種との連携が重要になってくると思いますが、そのためにどういったことが必要になってくるのでしょうか?

大学で習う内容は全て薬剤師の武器です。まずそれらをきちんと学習しておくということが一つ。先ほどのお話で出た薬物動態や薬剤、剤型という点に関しては、医師はあまり知らないので、その辺を薬剤師としてサポートしていくことが重要ですよね。

━━━━━現在の薬学部は6年制になり臨床に力を入れるようになったといえど、現場はイメージしにくい部分があるのかと思います。

神戸大学では、医学科と保健学科の学生と一緒にチームを作って行かせています。グループで病院に訪問し、そこで学んできたことをグループワークして発表します。そこでは地域連携などについて聞いてくるので、そこで地域連携をテーマに発表するチームもあります。施設の先生には質問しにくかったことでも同級生同士であると質問しやすいですよね。1年生にしても持っているわずかな知識を出し合って話し合いをするんですよ。

━━━━━IPEやIPWなどが進んできてもいますよね。

そうですね。やはり他の学部の学生との交流は非常に大切だと思います。学生同士ならばしがらみもなくフランクに話すことができますし。そういうことをこれからどんどんやっていくといいと思います。

━━━━━平井先生は緩和ケアにもご尽力されてきたと思いますが緩和ケアの分野において薬剤師はどのように関わっていくのですか?

緩和ケアもチームでやるので、その中での「薬担当」が薬剤師です。お薬のことに関して、緩和ケアの先生は、疼痛管理に関係した薬に関しては詳しいですが、それ以外の薬に関しては、薬剤師が幅広く対応しなくてはなりません。

━━━━━薬に関しては、薬剤師が責任を持つということですね。

そうですね。緩和ケアの薬だけではなく、緩和以外の薬含めすべての薬に関して責任を持つべきですね。

━━━━━「治す」だけではなく、緩和ケアではニーズなどを聞き出すことも重要になってきますが、そこで薬剤師が出来ることはありますか。

患者さんのそばにいて、患者さんと人間関係をもって、お看取りも、すぐ近くまで薬剤師が行ったりしています。治らない患者で、若い患者さんだったりすると悲惨じゃないですか。そういう患者さんを診ているととても辛いですが、薬剤師がそういうストレスをどう軽減するかというワークショップを以前緩和医療薬学会で行いました。
緩和は、がんだけではなく、いろいろな緩和があり、子どもの緩和や難病の緩和、色々あります。それらほぼすべてのケースに薬は必要となってきます。したがって当然薬剤師の存在が重要になってきますよね。

━━━━━そうですね、「薬」を広義にとらえて口から入るものは薬剤師がすべて管理するべきであると思っています。

特にこれから高齢化してくると栄養の問題はクローズアップされて来ます。薬剤師は薬だけではなく、栄養についても造詣を深めておかないと、医薬品のことだけ言っていたんじゃ、高齢の方のケアはできませんからね。

━━━━━確かに、栄養に関しても学習しました。やはりそれらを将来どう使うかを意識しないといけないですよね。

高齢者の施設なんて言ったら一目瞭然です。栄養が十分でないとどうなるのかすぐわかりますからね。今のトレンドはできるだけ口から入れるというところだから、必要な分だけ血管に入れたらいいという問題ではないし、胃瘻も待機的な胃瘻はいいけれど、ずっと胃瘻だけでいくというのはよろしくないという流れがある。胃瘻は悪者にされがちですが、待機的な胃瘻ならいいとは思いますね。患者さんのQOLを考えて、何が最善か選べるようにしておかないといけませんね。

━━━━━平井先生はポリファーマシーの改善という点でご活躍されていますが、地域の薬局の薬剤師がポリファーマシーを改善していくためにすべきこととはどのようなことでしょうか。

ポリファーマシーは数だけの問題ではなく、不必要な処方があればポリファーマシーです。ポリファーマシーの改善というと、数を減らすことだと思われがちですが不適切な処方を改善するという話なので、ただ単に数を減らせばいいって問題ではないんですよ。この状況の患者さんにこの薬というのは、果たして本当にいいのか、ということを評価できる知識がなければいけない。それから患者のニーズですね。これは明らかにいらないと思う薬でも、「これがないと私は駄目なんです」という患者さんもいます。そういう人にどうするのか。薬剤師が「だめです。」って言っても受け入れられないですよね。でもお医者さんから説明してもらえれば聞いてくれるかもしれない。そういう方はお医者さんに説得してもらう。そういういろいろなコミュニケーション力と、知識と、両方必要ですね。

━━━━━適切な、というのは薬学的にだけではなく、患者にとって適切な、というわけですね。

そうなんです。だから、疑義紹介で「これは不必要だと思います。」って言ったら、医者に「やかましい。」って言われるじゃないですか。それをどういう風に医者に理解してもらうかっていうのは、エビデンスをただ持ち出してどうこうじゃなくて、どういうアプローチをしたらいいか、そういうコミュニケーション力も重要。患者との信頼関係と、処方医との信頼関係が大事ですね。

━━━━━そのように自分が認めてもらうような能力というのは、どうしたらつけられるのでしょうか?

色々な人とコミュニケーションを取ることですかね。コミュニケーションというのはいろいろな形があるということを理解することがまず大事ですよね。コミュニケーション取りにくい人がいたらどのようにしていますか?自分の内面をまず出すとか、相手の言いたいことをまず聞いて、それからこっちの話を聞いてもらうとか、そういう工夫をするでしょう。信頼関係をいかに築くか。そういう工夫は日頃皆さんがすでにやっていることなんですよ。相手が患者さんであろうが医師であろうが何も変わりません。変に専門職だから専門知識をだそうと思うのではなくて、基本は人間同士のコミュニケーションですからね。一緒です。

━━━━━薬剤師、というところを出しすぎるとよくないですよね。患者さんから診たら、医師も薬剤師も「先生」に変わりありませんよね。薬学ばかり勉強していると、医療者目線になりがちですね。

それは、落とし穴になることがありますね。医療者目線はもちろん大事ですが、それだけでやっているとひどい目に合うと思いますね。ベースは人間同士。これを忘れてはいけません。

━━━━━地域の住民の健康をこれから担っていく上でどういった心構えをすべきですか?

若い方々は、地域の人たちにどう思ってもらいたいと思っているんですか?

━━━━━僕は、友達感覚でいいと思っていて、自分の職場以外の部分でお会いした時にご挨拶できるような、医療従事者としてだけではなく、地域の中の一人として在りたいと思います。
━━━━━僕もそう思いますが、ある程度医師と同じくらいの威厳などは持ち合わせておくべきだと思います。

ご近所さんのようなね。どちらも間違っていなくて、フレンドリーに話ができるというのは、相手が自分のことを気楽に話してくれる、それが一番大事だと思います。専門職としての専門性というのは、どういう場面でそれが求められるのかよく考えて、その場面で出す。最初から専門性を振り回していたら誰も近づいてこないので。相手が必要とするニーズのところに、いかに自分の専門性をあわせられるか。そこのポイントを合わせることが大事かなと思いますね。
ここで自分が求められてるぞ、というところを逃さない。それは患者さんだけではなく、相手が医師であっても、看護師であっても、福祉の方であっても皆同じだと思います。最初から「自分は薬剤師だからこれとこれとこれができるんだ」と言っていたら、それ以外はできないのか、ってなりますからね。

━━━━━そこで、自分が地域の健康を担っていくんだ、という強い思いを持つことが重要だと思いますが、そのために何かアドバイスなどはありますか?

それはやはり、フィールドを見ていることじゃないですか。地域の人の話を聞く。学校に行ったり、小学生とか中学生と話しをしたり。そういう生の声を聴くことが重要だと思います。地域にコミットすることで、アッと思うことはありますよ。

━━━━━そうなってくると、顔の見える関係というのはとても大事になってきますよね。転勤を重ねてしまうと、自分自身もその地域への思い入れとかが少なくなってしまいますし。

そうですね、でもどこに行っても友達作る人っているでしょう?そういう人たちって短時間でどれだけ自分のアピールをできるかということをわかっているんですね。自分の強みだったりを短時間でフランクに出すことが、重要なんです。時間をかけて信頼関係を築くというのは大事な事なんですが、パッと「この人は私の役に立つ人だ。」と思わせる訓練をしたらいいんじゃないでしょうか。そういうことは、みなさん普段からやられていることで、友達作る事と全く同じことですよ。

━━━━━今の薬学生をみていてどう思われますか。

シャイな学生が多いですよね(笑)ただあなたたちみたいに外部で活発に行動している人も増えてきましたね。そういう学生は、4年制の頃はいなかった。6年制になってから出てきたと思います。というのも4年だと短いので忙しくて自分のことで精一杯なんです。でも6年間になったことで周りを見る余裕が出たんじゃないかなと思いますね。

━━━━━ノンテクニカルスキルなど、医療以外の部分を高める余裕もでてきたのでしょうか。

そうですね。そうして、それがまた医療に戻ってきて、還元され、患者さんに使える。

━━━━━6年制というのは、単に臨床に力を入れたというだけでなく長さという面でも影響があったということですね。

そうですね。就活も4年性だと、3年生から考えないといけないけど、6年間なら、特に医療系ですと、就職活動はそんなに早くからやる必要ないですよね。そうすると学生としての活動を何かやってみようかなという方向に向いたんでしょうね。

━━━━━僕たちは6年制教育を受けていることをもっと意識すべきですね。

私は、6年制になったことによって、学生が学生らしくあればいいと思うんですよね。学生目線の活動ができるようになるということは私はとても素晴らしいと思います。学生のうちは失敗しても修正が効くのでいろいろな事にチャレンジできる。だからそういう時間が今までの倍与えられたと思えばいい。皆さんのような学生が出てきたというのは、薬学部6年制教育における成功の一つだと思いますよ。

━━━━━その6年制を受けて卒業した生徒がこれからどんどん現場に出ていくわけですが、それにより何かが変わると思いますか。

変わると思います。少なくとも、4年制のときは、学内のこと、勉強の事だけしか見れていなかった学生がほとんどだったと思います。それが6年制になって、学外、他の学生と交流することで、いろいろな見分を広めている。そういう人たちが現場に出て行って周りの薬剤師にも影響を与えることができればよりよい医療ができるのではないでしょうか。
だから今から皆さんが考えたり、悩んだりすることを後輩や周りの友達とシェアするといいでしょう。

━━━━━たしかに僕らの活動の中では、学びも多いですが、何よりつながりが出来たり、学会で先生方とお会いしてお話しを聞いたりして将来のビジョンを描けることがなにより重要であると考えています。

ネットワークですよね。人脈というのは人生において一番の財産ですよ。

━━━━━平井先生は、とても広い世界を生きていらっしゃりますが、その原動力はどこにあるんですか?

ただ単に好奇心ですよ。単純に面白いじゃないですか。面白いことをしていったら、面白いことが次々と出てくる。今なんかネット社会ですから、探せば面白いことなんかいっぱい見つかります。すごくいい時代ですよ。
いろんな面白いことを集めると、それが仕事につながっていくんですよ。
どこでどうつながっているかわからないでしょう?そういう、一見どこで繋がっているかわからないようなものを自分の中に取っておくというのはとても大事な事なんです。

━━━━━医療に関わるうえで、引き出しを多く持っておくというのは大事なことですよね。

そうですね。医療は、引き出しが少ないと駄目です。患者さんて本当に多様な方々だから。そういう人たちと、どのようにコミュニケーションを取っていくか。それをいろんな引き出しを持って対応していくのが医療従事者です。

━━━━━学年が上がると、研究室などに追われて、なかなか自由な時間が無くなってきますが、その中でも自分の興味のあることなどには常にアンテナを張っていないといけませんね。

その通りです。研究室の中だけに楽しみを見出す人もいますよ。細胞のこの中身が面白い!みたいな(笑)それはそれでいいんです。ただ、患者に関わっていきたいと思う人は、広いコミュニケーションができるように努力していくべきとは思いますね。

━━━━━最後に、薬学生へのメッセージをお願いします。

薬剤師は、健康な人がより健康になるために関わっていくという仕事ができます。その点において他の職種よりも持っているツールはたくさんあります。薬剤師がもっと頑張れば、日本人の健康度がもっと上がると思うので、是非がんばっていい薬剤師になってください。

━━━━━国民の健康を自分たちが担っていくんだという熱い思いを持っていたいと思います。

そうですね、恥ずかしがらずに堂々と言うということが重要です。笑われてもいい。笑いを取れるっていうことは関西人にとっては最高ですからね。

IMG_6023 (1)
インタビュアー:小池雄悟(立命館大学4年), 矢野光海(神戸学院大学3年)