全ての人がスポーツを楽しむことができるように、薬剤師が今できること


文部科学省スポーツ庁国際課長
今泉柔剛先生インタビュー

『全ての人がスポーツを楽しむことができるように、薬剤師が今できること』

━━オリンピックにおいて薬剤師はどのように関われるのでしょうか。

私はいろいろとあると思っています。もちろんオーソドックスに思いつくところは、スポーツファーマシストですとか、薬の適切な服用、適応に関して薬剤師の皆様方がその専門知識で、適切な薬を必要とする人に、必要な分提供するということがまさに一番のことだと思います。ただ、それだけではなくて薬剤師の中にもアスリートになる人もいるでしょうから、そういう人はアスリートでもご活躍頂きたいし、ボランティアで活躍する場面も実はたくさんあります。薬学についての基礎知識を持っている人、適切な服用について知っている人がドーピング検査員のサポートをしてくれれば、それは非常にありがたい話です。もし、アスリートでもなく、コミットする時間もない忙しい方も観戦者になっていたただき、日本を応援してくれればその盛り上がりだけでも、大きな意味があると思います。薬剤師の方は、それぞれの立場やその時の仕事状況に応じて関わっていただけたらなと思っています。

━━スポーツの分野において薬剤師に期待することは何でしょうか。

薬の服用について、必要な人に必要な分だけ薬を出すということをぜひ薬剤師の皆さんには期待したい。薬物乱用というのは、どうしても手軽に手に入ってしまうがゆえに起こってしまうことなので日本薬学生連盟の活動で、薬物乱用防止キャンペーンなどやっていただくことがまさに薬剤師や薬学生に期待することです。また、少しベクトルが違いますが、高齢者や怪我をしている人など、そういう人たちがスポーツに関与できる、スポーツをやりたいときにそのスポーツをサポートできる、そのために薬の力を使うというのはありだと思っています。トップアスリートが本当は血と汗と涙で培うべき競技力を、安易に薬を使って上げてしまうのは不正ですが、競技目的ではなく、プライベートで自身が楽しむためにスポーツを行う人に対して薬が必要であれば、適切な量を服用することは問題ないと思っています。障がいのある無しに関わらず、子供から高齢者まで全ての人が、スポーツを楽しむことができるように、必要な人に、必要な量、必要な薬を提供することが薬剤師にできることではないでしょうか。

━━スポーツファーマシストの現状についてお教えていただければと思います。

現在の状況について申しますと、この仕組み自体は民間の活動です。政府が関与して作ったものではありません。平成21年にJADAと日本薬剤師会が連携して作りました。これは世界各国にある仕組みと同じものというわけではなく、日本が独自に開発したもので世界からも注目を受けています。特にIOC(国際オリンピック委員会)や世界アンチドーピング機構もこの日本のスポーツファーマシストの仕組みが素晴らしいというので注目している状況です。ただ、今申した通り日本以外では実例がない状況です。現在7000人のスポーツファーマシストがいます。スポーツファーマシストの資格は4年間有効ですが、当然これには研修が必要となってきます。資格を持っている方は自費で意欲を持って研鑽されているので、素晴らしいと思いますね。

━━スポーツファーマシストの活動に対する対価はどのようになっているのでしょうか。

現状では、普通の薬剤師とスポーツファーマシストとで対価が変わることはないですが、メリットは、アスリートにとって、スポーツファーマシスト認定の表記がある薬局の方が安心して行きやすいという点があります。なお、スポーツファーマシストには課題がありまして、毎年ドーピングにおける禁止物質が変わるため、それをアップデートしなければなりません。また、アップデートしたとしても7000人いるスポーツファーマシストに情報がいきわたるような仕組みがまだできていません。全国の薬剤師への情報伝達の仕組みを作る必要があります。そういう意味で、学生の頃から、全国的に活動されている皆さんのネットワークを将来に活かしてほしいと思います。

━━薬学生がオリンピックに対して医療情報を提供するなどのボランティアをすることはどのように思いますか。

そのような形でオリンピック・パラリンピックに参加していただけることはこちらとしては本望です。また、もう一つの関わり方として今、国の方でSports for tomorrow事業(http://www.sport4tomorrow.jp/)というものをやっています。これは東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年までに、官民連携のもとで開発途上国を中心とした100カ国・1000万人以上を対象に推進されるスポーツ国際貢献事業です。​オリンピック・パラリンピックには日本人選手だけではなく、200か国以上の国から東京にきて参加するわけですが、日本はドーピングに関してはクリーンな国で、ドーピング違反確定率も0.1%くらいで、1000人に一人出るかどうか位というところです。ただ、ある国だと10人に一人、違反確定率が10%という国もあります。明らかにドーピングに対する価値観でしたり、オリンピックでメダルを取ることの意味が違います。そんな中、メダルの価値がアスリートの人生にとって大きく、周りもドーピング違反している国の選手が日本にきてオリンピック・パラリンピックに参加してドーピングしてもよいのかといったらもちろんしてはならない。そのようなことを防ぐためには、各国に対してドーピングは不正であると伝えるだけではなく、ドーピングによる必要以上の薬の服用によって健康被害や日常生活に支障が生じる可能性があり、その後の人生にも悪影響をもたらすかもしれないということを伝えていかねばなりません。ここで日本の薬学生または日本の薬剤師が、各国に行って伝道師となっていただければ状況も変わってくると思います。単に日本のオリンピック・パラリンピックに参加するだけではなく、交換留学やボランティアで海外に行き、そういった教育活動に携わるというのもありかもしれません。実際にSport for tomorrow事業では、海外へ送り出すお金なども国から出したりもしています。

━━最後に薬学生へのメッセージをお願いします。

大きく二つあります。薬学生としておそらく皆さんは人々の健康で豊かな生活を支援したいという思いを持たれているかと思います。薬という手段を使って「新たな薬を開発したい」、「薬の適正使用を促していきたい」という想いが一人一人あるかと思います。是非そういった想いを大切にしてほしいですね。私も公務員なので、自分の人生、自分の時間、自分のエネルギー、自分の体力すべてを人のために使っていますが、そのような自分が使う時間等によって、ほんの少しでも世の中が良くなったり、他の人が幸せになったり、健康になったりするのであれば、そこに仕事をする意味や生きている意味ができるのだろうと考えます。そして、そのような自分の努力によって、ほんの少しでも世の中が良くなるのであれば、その分だけ日本が良くなり、その分だけ世界が良くなり、その分だけ未来の地球が良くなるのかもしれません。もし、そうであれば、地球規模・歴史規模でみればほんの少しかもしれないけれども、自分が今ここに存在して仕事をすることに意味があるのだと思います。今、我々が生きる世界のすべてが、そうした先人たちの努力の積み重ねによってできているのだと思います。これから実際に社会に出て、仕事をする皆さんには、人々の健康で豊かな生活のために、その知見を使って貢献したいという想いを是非大切にして頑張っていただければなというのが一つです。二つ目は、先ほども言いましたが、日本薬学生連盟のような全国ネットワークというのは、本当に貴重ですし皆さんにとっても財産になると思います。薬剤師になられる方、また薬剤師にならなくても製薬会社ですとか、私と同じような国家公務員、大学教授になられる方もいらっしゃるでしょうし、いろんな人生の選択肢があると思います。このネットワークというものは非常に重要で、このネットワークで通じた人脈というのは是非社会人になっても続けていただけるようなものであってほしいと思います。これがさきほど話した、薬剤師における情報格差の解消にもつながっていくのだと思います。

インタビュアー
北澤裕矢 (東京薬科大学4年)志水仁美 (星薬科大学4年)広瀬若菜 (明治薬科大学4年)
吉田栄子 (東邦大学4年)吉本愛梨 (慶應義塾大学3年)