皆さまこんにちは。国際渉外部です。
本コラムでは、韓国と日本における薬剤師の働き方についてご紹介します。
【韓国】
はじめに ~KNAPSとは?~
KNAPS(Korean National Association for Pharmaceutical Students)とは、韓国の薬学生が運営する学生団体です。韓国国内37の薬系大学の在学生と卒業生で構成され、会員数は2300名以上となっています。(2020年現在)
KNAPSと私たちAPS-Japanは同じ国際薬学生連盟(IPSF)に所属しています。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止となってしまいましたが、例年は世界会議やアジア地域でのシンポジウムなどで実際に交流する機会があります。
KNAPSについて詳しく知りたい方はHPをご覧ください!
公式サイト:https://knaps.or.kr/
グローバル視野での薬剤師
薬剤師は、薬の専門家として医療チームの中で活躍しています。世界保健機関(WHO)と国際薬剤師連盟(FIP)では、高品質の医薬品の物流調整・在庫管理・調剤・服薬指導などを行うことで、患者の健康増進に貢献する薬物療法士としての薬剤師の役割に取り組んでいます。
また、薬局業務には、患者中心のケアに際してカウンセリングや薬物情報の提供、薬物治療の経過観察などの対人業務に加えて、医薬品供給管理などの対物業務が含まれています。特に薬物治療の管理をすることで、薬剤師は患者の治療に重要な貢献をすることができます。 (WHO / FIP 2006)
その中で韓国の薬剤師は、薬局だけでなく多くの現場で働いています。薬剤師の責任はますます拡大しています。2009年に薬学部の教育制度が6年制に変更されたことでそのスピードはさらに拡大しています。
Community Pharmacist 地域/薬局薬剤師
韓国では、薬剤師と言えば一般的に、「地域薬剤師」または「薬局薬剤師」があげられます。薬の知識を地域の人々に直接伝え、薬物乱用を防ぐことが公衆衛生分野の第一線での彼らの主な役割です。多くの場合、この道を選んだ新人の薬剤師は、アルバイトと同じように働いています。薬局を運営するためには2つの選択肢があります。個人薬局を開業するか、「オプティマ」「オンヌリ」などのフランチャイズ薬局の店長となるかです。日本と異なり、韓国のドラッグストアには薬剤師はほとんどいません。ドラッグストアは化粧品や健康製品を取り扱うことを目的としているので、医薬品はほとんど扱っていないからです。
(画像:Optima/Onnuriのロゴマーク)
韓国の医療制度も、医師による処方と、薬剤師による調剤・カウンセリングとに分けられています。薬剤師は、処方箋をダブルチェックすることで処方ミスを防ぎ、医師ー患者間のスムーズなやり取りを後押しします。薬剤師は調剤と服薬指導の両方を行います。一方、大学病院の門前薬局などでは、薬剤師が薬の取り揃え、服薬指導、データ処理などのすべての業務を担当しています。市販薬や健康製品の販売、処方薬の処方料、薬剤管理指導料は地元の薬局の主な収入原です。
Hospital Pharmacist 病院薬剤師
病院薬剤師の仕事は主に4種類に分けられています。その中で、薬剤師は定期的に部門を移りながら全体的な病院薬剤師業務を学びます。
最初は病棟です。このチームのスタッフは、入院患者に薬を調剤したり、退院患者に退院後の服薬指導を行ったりします。ただし、注射薬・PTPシート製剤・抗がん剤などの医薬品はこの部門では取り扱っていません。というのも、非常に慎重な使用が求められるので抗がん剤部門で専門に扱っています。通常、注射器で投与するため、抗がん剤部門の薬剤師は防護服と手袋を必ず着用しています。また、これらの薬は高価であり、無菌室で取り扱います。
次の部門は外来です。ここでは、外来患者に調剤を行っています。地元の薬局などに比べて頻繁に通院しない患者が多いため、一度に調剤する薬の量はやや多くなっています。また、地域薬局ではあまり取り扱っていない吸入剤や注射剤の投薬指導も行っています。 最後はDI(医薬品情報)室です。主に事務作業を行い、他の3つの部門が適切に機能するようサポートしています。この部門の薬剤師は、看護師や医療スタッフなど、病院内での他の部門のスタッフからの問い合わせがある場合に情報を提供します。
専門薬剤師とは、一般の病院薬剤師からさらに一歩進んだ薬剤師のことを指します。病院は、独自の基準に従って専門薬剤師を教育しています。6年制を卒業した薬剤師は、専門薬剤師になるために病院薬剤師としてさらに1年の経験が必要です。すべての大学病院が専門薬剤師をサポートしているわけではありませんが、近年は5つの病院でサポートが行われています。
病院薬剤師の魅力は、病院内の医療スタッフ教育に参加し、自分の専門性を向上できることです。また、安定した職であることも長所の一つです。一方で、給料が低いことが短所としてあげられています。そのため、現在病院に就職する人は全体のわずか3.9%です。この割合は、他国の約4分の1となっています。薬局薬剤師に比べ、病院薬剤師は患者と対面する機会が少ないことに、その人の性格との合う・合わないがあるようです。
Industrial Pharmacist 産業薬剤師
産業薬剤師とは、製薬会社や化粧品会社などの企業で働く薬剤師を指します。韓国では、製薬会社を希望する就活生が増えています。製薬会社での業務は、販売・マーケティング・臨床・研究・生産・品質管理の大きく5種類に分けられます。医療情報を消費者に配信することで、医師の治療を支え、患者満足度を高めています。
マーケティング(PM)部門では、製品と広報戦略を分析し、計画・実行します。
臨床部門では、新薬候補物質のすべての臨床試験中に、ヒトに対する有効性と安定性を検証する段階を担当しており、CRA、DM、PVにさらに分類できます。
研究部門では新薬とジェネリック医薬品を開発し、より良い医薬品を創り出しています。
生産および品質管理部門では、薬品工場で生産計画を作り、その品質維持に責任を持ちます。また、物理化学的および生物学的試験を含むさまざまな方法によって、医薬品および製造プロセスの製造に必要な原材料および材料を評価する責任もあります。
韓国の医薬品市場は世界で12番目に大きい市場です。(2018) 年間成長率は6%で、世界の医薬品市場の約3%を占めています。韓国の製薬会社は、売上の5~30パーセントを研究開発に投資して新薬を開発しています。また、各国の新薬の特許満了と薬価管理の強化によって、ジェネリック医薬品の製造比率が上昇しています。さらに、合成薬よりも毒性の少ないバイオ医薬品の製造では大きな利益を上げています。韓国の製薬企業はこれまでに合計30種類の新薬を開発しており、そのうち15種類が海外に進出しました。近年、ヘルスケア業界が注目され、この分野での発展が進んでいます。自己血糖測定器SMBGなどの疾患診断キットの開発や、個人の遺伝的特徴に応じたカスタマイズ医療の提供など、トータルヘルスケアを担当することを目指しています。
Government Pharmacist 行政で働く薬剤師
行政で働く薬剤師は公務員免許を持っています。韓国では薬剤師を雇う機関がたくさんあります。代表的な例としては、厚生省、食品医薬品安全省、韓国知的財産局などです。公務員ではなく、健康保険審査、査定サービス、国民健康保険公団などの公的機関で働いている人も、広義としての行政で働く薬剤師と呼ばれています。
厚生省は主に研究員として薬剤師を雇用しており、就職には修士以上の学位が必要です。「Grade7」または「Grade9」(※注)の公務員試験に合格した薬剤師は、食品医薬品安全省で働くことができます。一方、韓国知的財産局は特別採用により薬剤師を雇用しており、採用された者は医薬品の特許審査に関連する業務を行っています。
行政分野で薬剤師として働くことの魅力は、安定した給与と年金、そして公益のために働くことから得られる名誉と尊敬です。短所は、収入が薬局を経営する薬剤師の収入ほど高くないことです。
(注:日本と同じように、韓国でも公務員が分類されています。最高位であるGrade1からGrade9まであり、階級によって給与も異なります。Grade7は日本でいう国家Ⅱ種、Grade9は国家Ⅲ種程度に当たります。)
Professors 薬学分野の教授
大学や研究センターの薬剤師は通常、修士号や薬学博士などの高度な学位を持っています。主に研究分野での教育・研究・コミュニティサービスに関わっており、これらの分野の教授や専門家は、健康保健のエージェントとして未来の薬剤師を育成する責任があります。
Others その他
薬学専門分野の法律家、ジャーナリスト、コンサルタント、NGOなどの活動家
いかがでしたか?次は日本の薬剤師について見ていきましょう!
【日本】
Community Pharmacist 地域/薬局薬剤師
1.薬局薬剤師
韓国ではコンビニで一部の医薬品を売ることができますが、日本では医薬品を売ることができるのは「保険薬局」と「ドラッグストア」のみです。保険薬局では医療用医薬品とOTC医薬品の両方を、保険薬局の併設していないドラッグストアではOTC医薬品のみを扱うことができます。
保険薬局では以下のような業務を行っています。
・OTC医薬品などの販売
・処方せんに基づく薬の調剤
・薬の副作用や併用(飲み合わせ)による弊害などのチェック
・薬剤服用歴の記録(※1)の作成
最近では、寝たきりの患者さんの家庭を訪問し、服薬指導や薬の管理指導などを行う在宅医療業務も広く行われるようになってきました。介護保険についての相談窓口としての仕事もしている薬局もあります。
これからはさらに、栄養指導や運動療法も含めた包括的な患者さんのサポートが求められることでしょう。
(※1 薬剤服用歴:患者さんに適切な薬の飲み方の説明や指導、服薬状況等をまとめた記録。複数の医療機関をまたがる場合の重複投薬のチェックや市販薬・食べ物との相互作用のチェックなどを行います。)
調剤薬局を併設していないドラッグストアでは、調剤はできませんが、OTC医薬品の販売を通じてのセルフメディケーション(自己治療)の手助けを行っています。健康食品や医薬部外品、介護用品なども扱っているため、それらを活用した生活上のアドバイスなどもすることができます。OTC医薬品の中でも、要指導医薬品や第1類医薬品は効果・副作用のモニタリング、症状や経過によっては受診を勧奨するなど、きめ細やかなサポートがより大切となり、一番身近な専門家として薬剤師の知識・活躍が期待されます。
上記で上げた普段の業務以外にも、薬剤師としての知識・技術を生かして薬物乱用防止運動や健康増進に関する運動など、地域の方々への啓発活動なども行っています。
2.薬事衛生業務 ~地域に貢献する薬剤師~
次のような事項についても、薬剤師は薬学の知識に基づいて活躍しています。
・医薬品・医薬部外品・化粧品及び毒物劇物含む化学薬品の製造・輸入・販売・授与・管理・保存・試験など
・食品衛生、環境衛生、学校、幼稚園などにおける管理・試験・検査・研究など
・日常生活における薬などの使用に関する相談・助言等
例えば学校薬剤師業務として学校における飲料水、プールの水質検査、黒板や机の照度、空気、給食室の衛生管理、理科室内の薬品管理、保健室内の医薬品の管理、フッ素洗口業務による薬物管理、防煙教育活動など環境整備を行ったり、国が推し進めている「ダメ。ゼッタイ。普及活動」に代表されるように、麻薬、覚せい剤、シンナーなど、薬物が誤って乱用されないように地域における薬物乱用防止の普及、啓発活動なども行っています。
こういった調剤業務以外の活動を行うことで、人々の健康への関心を高め、ヘルスリテラシーを高めていくことも、薬剤師の役割だと薬剤師法に定められています。
Hospital Pharmacist 病院薬剤師
病院薬剤師は内科的または外科的な疾患のみならず、抗がん剤や抗菌化学療法に用いられる薬物、緩和治療に用いられる薬物なども扱います。調剤薬局と比較すると圧倒的に扱う薬物の種類が多いのが特徴です。入院患者の薬物治療の経過を管理するのも病院薬剤師の重要な役割です。
その仕事は様々ですが、調剤業務や製剤業務に加えてチーム医療に加わることがあります。チーム医療は医師や看護師、管理栄養士などの医療スタッフと協力し、各々の専門性を尊重しあって患者にとって最適な治療を見つけていくことが目的です。患者にとってより良い薬物治療を見つけるためには、薬剤師の的確な投与設計や適正使用の促進、副作用の経過観察がなくてはなりません。
病院薬剤師には多種多様な業務に対応できる豊富な知識や経験、そして高い専門性が求められます。医師の診断結果をもとに、より安全性や質の高い治療を提案できることが重要です。また、円滑なやり取りには不可欠の、豊かなコミュニケーション能力なども求められています。
Industrial Pharmacist 企業ではたらく薬剤師
医薬品や疾患の情報を科学的・客観的に整理する立場で、その働き方は多様です。その主なものを以下に述べていきます。
【製薬企業】
・営業部門
⾃社の製品についての情報提供・プロモーションを主業務とします。
医薬品情報担当者(MR)
製薬企業で医薬品の情報を医療機関に提供する担当者を指します。⾃社製品の有効性、 安全情報を医師や薬剤師に提供すると同時に、副作用や使用感などの情報を医療従事者 から収集します。認定試験への合格を就職の条件としている製薬企業が多いです。
・メディカルアフェーズ部門
営業・マーケティング部門やビジネス部門とは独⽴した部門で、高度な医学的・科学的専門性に基づく活動を主業務とします。
メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)
医師や研究者と最新の知識に基づく高度な医学的・科学的情報について議論することが できる能力をもつ職種です。公正かつ客観的な⽴場でコミュニケーションを⾏います。
メディカル・インフォメーション(DI)
疾患や治療、疾患治療医薬品に関わる最新情報の収集や解析を⾏い、社内外関係者と共 有します。
求められる適性
・製薬会社と臨床をつなぐ接点としてのコミュニケーション能力
・薬学・医学の知識を常にアップデートするため勉強をし続けることができる
・医師と信頼関係を気づくことのできる誠実さ
・ルールや法律を守る倫理観を備えている
【化粧品会社】
化粧品会社では薬剤師は「開発部門」「薬機法関連部門」に配属されるのが一般的です。 業務内容は大きく分けて以下の 2 つとなります。
・研究開発
薬学部から化粧品メーカーへの就職というとこの業務をイメージする人は多いでしょう。 化粧品はその効果はもちろん、同時にその安全性も維持しなければなりません。また、開発には薬機法などの専門知識が必要になってきます。 この分野で働く薬剤師は化粧品の新規有効成分を研究したり、高機能な新素材を開発したりします。また、試験・製品検査を⾏い、化粧品の開発に向けて取り組んでいます。
・管理部門
⾃社製品が薬事法の基準に沿っているか確認する品質管理、新しい製品の薬事申請など、様々な業務を⾏います。他にも、医薬品等の安全管理(GVP)業務、広告表現の薬事チェック、顧客の問い合わせ対応などを担当しています。いずれも薬事的な観点が必要であるため、薬剤師の活躍が期待されています。
Government Pharmacist 行政ではたらく薬剤師
(画像:厚生労働省 看板)
技術系公務員はその専門性を活かし、国民・住民生活の「安全性」や「利便性」の維持・向上に努め、また民間企業等と共に国民経済・地域経済の発展に貢献しています。
技術系公務員の具体的な職種について紹介します。
表. 代表的な技術系公務員とそれぞれの職務内容
公務員の種類 | 職種名 | 職務内容 |
国家公務員 |
厚生労働省 | 医療機器や食品安全等を通じた公衆衛生の向上、
国民の健康増進や国際貢献等のための政策立案 |
自衛隊 | 幹部自衛官として部隊の指揮、
自衛官達への医療活動 |
|
麻薬取締官 | 規制薬物に係る監督や捜査、
薬物乱用防止の啓発活動 |
|
地方公務員 |
科学捜査研究所 | 試薬や分析機器を用いた薬物の検査や鑑定、
司法解剖 |
都道府県庁 | 環境衛生の監督や認可、
災害用医薬品やワクチンなどの備蓄 |
|
公立病院 | 病院薬剤師と同等 |
厚生労働省
厚生労働省に勤務する技術系公務員は、医療安全等による公衆衛生の向上や、健康増進等のための政策立案を通じて社会や世界に貢献しています。また、薬学部カリキュラムの制定や薬剤師国家試験の作成など、薬学部にフォーカスした仕事もあります。したがって、厚生労働省は薬学部出身者の技術系公務員が最も活躍出来る職種の1つであると言えるでしょう。
時代の変化等に対応して見直されるべき部分はもちろんあるにしても、「安全・安心」が国民的ニーズとなっている現代日本において、技術系公務員の果たす役割はいつの時代も大きいと考えられます。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました!
両国の薬剤師業務について新たな発見はありましたか?
日本でも韓国でも、薬剤師はさまざまな分野で活躍しています。将来どの道に進むのか、学生のうちからしっかり考えていきたいですね!
こちらの記事はKNAPSの公式サイトでも紹介されています。そちらもぜひご覧ください。
CREDITS
日本薬学生連盟(APS-Japan)
木村菜菜子(国際渉外部)
玉城美夕(交換留学委員会)
雨宮和奏(交換留学委員会)
廣澤孝駿(国際渉外部)
西光優衣(国際渉外部)
芝口歩那(文校閲)(国際渉外部)
한국약학대학생연합(KNAPS)
Christie KumJo Seo
YeonJi Lee
Edward HyeokJoon Kwon
ChaeBin Baek
Amelia Seungeun Lee