新型コロナウイルスのパンデミックはさらに勢いを増し、国内の感染者数は40万人を超えました。この感染拡大抑止の切り札として期待されているのがワクチンです。新型コロナウイルスに対するワクチンは急ピッチで開発が進み、2020年12月から現在までの2カ月で既に一億回前後も接種されています。特に注目を集めているのが、スパイクタンパク質形成により免疫応答を誘導するmRNAワクチンです。これまでの不活性型や生ワクチンとは異なる新しいタイプであることから、ごく一部で副反応に対する懸念の声も認められます。しかし、臨床データでは副反応発生は極めて稀であり、そのほとんどが現在では回復しています。
さて、今でこそ新型コロナウイルスワクチンの情報は目にすることも多くその議論も活発に行われていますが、
2020年春時点ではワクチンどころかウイルス自体の情報も決して今ほどはありませんでした。実際にワクチンが開発されたいまと2020年春では、新型コロナウイルスワクチンに対する意識も異なると考えられます。日本薬学生連盟では2020年4月から5月にかけて新型コロナウイルスのワクチンに対する意識調査を行いました。ワクチンに関して接種意思に影響し得る様々な情報があふれる以前では、どのように考えていたのでしょうか。この結果を数回のコラムとして、あえていま、公開します。
・接種しないと答えたのは僅か2%
コロナ禍初期において、接種しないと回答したのはわずか2%でした。一方で打つと答えたのが42%、まだ判断できないと回答したのは56%でした。当時はあらゆる情報がなく、有効性と安全性が臨床試験で確認されてから考えたいとの回答が多くみられました。現在世界各国で接種されているワクチンは有効性と安全性が各々の国で承認されています。
当時の回答は、インフルエンザワクチンのような皮下注射の不活性型ワクチンをイメージして行われたのではないでしょうか。mRNAワクチンを接種することになれば注射部位は筋肉です。筋肉注射を受けたことがない人は、その名前と未体験の不安、痛みなどに抵抗を持つ人が少なくないと思われます。
そのほか、「費用が高額なのではないか」という懸念の声も見られました。このアンケートで取り上げたインフルエンザワクチンは自費で接種を受ける(自治体等により補助の場合あり)ため、金額面での不安が見られたのだと考えられます。新型コロナウイルスワクチンの費用については全国民が無償で接種できることが発表されています。高額な費用を心配する必要は無くなったと言えます。
日本のメディアではどんなに頻度が少なくとも副反応がセンセーショナルに取り扱われ、本来のワクチンの有用性について考える前にワクチン=副反応=危険という構図で拒否反応を示す人が少なくありません。また、mRNAワクチンについては「遺伝子が書き換えられる」「体内にずっとmRNAが存在し続ける」といった誤解も多くみられます。こうした心配が全くの誤解であることはこの文を読んでいる医療系学生であればよく理解できると思います。しかし、前提となる知識が異なる分野の人には理解が難しい場合が多いです。正しい知識をだれにでもわかりやすく、誤解がないように伝える力が医療従事者には特に求められるのではないでしょうか。
(2020年度スタッフ)
注記
・本アンケートは2020年4月から5月にかけ、回答数を1人1回に制限してインターネット上で行いました。
・本アンケートは回答者の多くが薬学部生であり、前提知識による回答の偏りが否定できません。そのため、例えば全大学生がこうであるというような広い解釈を行う場合の正確さは担保できません。
・本アンケートは全体の傾向としてこの結果をそのまま当てはめるのに十分なサンプル数が得られていません。なお、回答者数は48名であり95%信頼水準での許容誤差は約14%です。
・このコラムは2021年2月上旬に書かれたものです。現在とは一部内容が異なる場合があります。ご了承ください。